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めぐりくる蝉時雨
収骨を済ませ、香鈴達は実家に戻ってきた。
「これから……どうするの?」
香鈴が麗奈に訊いた。
父は不動産業と建設業のほかに、いくつか事業を展開していた。
父の死後、それを継いだのが父の建設会社で働いていた大智だった。
町では祖母に次いで父、母が亡くなったせいで、美園家のあらぬ噂が流れていた。
現場のことしか知らず、まだ若い大智についてきてくれる社員は、そんな噂も影響してか、少しずつ減っていき、事業も縮小の一途をたどった。
それでも不動産と建設業の会社だけは、残ってくれた役員のおかげで、なんとか持ちこたえていた。
その大智が死んだ。
残された会社と、この広い家。
麗奈は、町の信金で働いている。
香鈴と周平には、札幌での生活がある。
麗奈は黙ったまま、ただ一点だけを見つめていた。
「私だけじゃ、どうにもならないから……建設会社は、専務に任せようと思ってる」
麗奈が葬儀で話していた相手は、建設会社の専務で、父の右腕だった人だ。
そこで、今後の会社について話し合っていたらしい。
「信金は辞めて、不動産だけ私が引き継ぐけど、お姉ちゃん、それでいいよね?」
「麗奈が……それでいいなら」
不動産業は新たな売買取引がなくとも、現在所有している物件の賃貸収入だけで、どうにかやっていけると麗奈が言った。
ほかにある事業は、ほとんどが赤字経営のため、閉鎖するそうだ。
「でも、本当にそれでいいの?」
「……何が? お姉ちゃんに言っても結局、人任せにするだけじゃない」
香鈴は、何も返させなかった。
父が死んだ時も、母が死んだ時も、香鈴は残された家族にすべてを任せていた。
高校卒業と同時に家を出た身で、家や父の会社のことは何も分からない。
余計な口出しをして、家族ともめるのだけは避けたかった。
しかし、残された家族にしてみれば、そうではなかったようだ。
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