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はじめの母 持田優子
「そりゃもうびっくりしましたよ。普通、あんなものポストに入ってないでしょ?」
自宅の郵便ポストに、長四封筒を見つけたのは、スーパーのパートから戻った午後四時の事だった。消印はあるが、差し出し人の名前はなかった。封筒には何か厚みのあるコロっとした物が入っているのが分かったそうだ。
「まさか、指だなんて思わないでしょ?あーやだ!思い出しただけでゾッとしちゃう!」
両腕を摩りながら優子は首をすくめた。封筒の中には、手紙などは一切なく、小さなジッパー付きの袋に入れられた人間の指が入っていた。サイズや太さから、成人男性の足の親指だと言うことは分かったそうだ。
「すぐに警察に電話しましたよ。そしたら、すぐに刑事さんが来て、家族は全員無事かって」
長女は結婚して他県に暮らしていたが、すぐに連絡がついたものの、長男のはじめには連絡がつかなかった。
「連絡なんて普段からありませんよ。どこに住んでるのかも分かんない子だから、どうしようもないのよ」
しばらくして、はじめの捜索願いが届出られていることを担当刑事から知らされたと言う。
「いくらバカでも、腹を痛めて産んだ子ですからね。心配しましたよ」
持田はじめは昔から手のかかる子供だったようだ。とは言え、優子は実家を出た十九歳以降の消息についてははっきりしない。自分の息子が、仕事にもつかず、常に誰かの養分を吸い上げ、害を撒き散らす寄生虫だという事実は知らないのだ。
「人様に迷惑だけは掛けるなって、そうやって育てて来たんですよ?指を切り落とされなきゃいけないような人間なわけないでしょう」
優子の見解と、周囲の見解には大きな隔たりがある。息子を否定すれば、自身の子育ても否定することになるのだ。親心というのは、乙女心よりも複雑なのかも知れない。
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