サラリーマン H田K馬

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サラリーマン H田K馬

「連れてると気分良かったですよ」  金曜日の夕方、混み合う居酒屋の店内で向かい合ったH田は、ジョッキの生ビールを美味そうに喉に流し込んだ後、そう言った。 「ガチムチ系が好まれるって思われがちなんですけど、僕みたいにスリムな子が好みな人も多くて。もっちー連れて、飲みに行くと、みんなが振り返るから」  ここにも持田はじめの容姿に引かれた人間がいた。友人の亀田が言ったとおり、持田はじめのストライクゾーンにジェンダーというボーダーラインはない様だ。H田と持田は恋愛にまで発展しない、所謂、セフレといわれる関係だった。ただし、H田は持田と関係する度に金を渡していた。 「別に払わなくてもよかったんだけど、色々ダラシない子だから、部屋に転がり込まれるのも困るんで、タクシー代ねって多い時は一万円渡してましたよ。それで済むなら全然安いでしょ」  確かに亀田や柊花やレイナの様に、部屋に転がり込まれるのは迷惑な話だろう。自分のセクシャリティーを公表していない場合は特にだ。 「ダイバーシティとか言ってたって、全然、ですよ。僕らの階層までは浸透してない。ファッションじゃないから、すぐ着替えるってわけにもいかないし。人間の意識なんてそんな変わんないでしょ?」  だったら、今まで通り静かにしてる方がいい。とH田は言う。それで恋愛やセックスの自由が奪われる様なこともないということらしい。現にH田は自由に人生を楽しんでいるように見えた。 「色んな人とセックスしたけど、もっちーとの相性は五本の指に入るかな?僕はバンビーナ・チコって店で知り合ったんですけど、多分、あの人もそうじゃないかな?」  あの人は事件の加害者、猿渡幸樹のことだ。 「快楽主義って言うんですかね?もっちーって、楽しいこととか気持ちいいこと突き詰めるみたいな、危なっかしいとこあったんで、その内なんかやらかすんじゃないかって思ってました。薬やってないの意外なくらいでしたから」  H田はあっけらかんと笑った。 
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