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窓から差し込む日の光に、僕は思わず顔を顰めながら起き上がる。
まだ完全に覚醒し切っていない頭を使い、目元に指をあてる。昨晩まではあった物が無いことに疑問を持ちつつ、どこかに落ちてしまったのだろう愛用しているメガネを探した。
しかしそれは容易ではなかった。
目を凝らせば、ぼやけた眼前に見えてくるのは一面に広がる資料たち。
そこで僕は、ああ、そうだった、と昨夜の自分の行動を思い出す。
仕事の為に広げた論文、医学文書、そして医学書が机上に散乱していた。
その中から『メガネ』という小さな物を探し当てるのは少々骨が折れるというもの。
しかし無ければ生活に支障をきたすので、僕は一生懸命になりながら散乱した机上を探し、ついに10分ほどして目的であるメガネを探し当てることができたのだった。
ここでこんな時間を要するとは思ってもみなかった。若干の気疲れが僕を襲った。
寝落ち、恐るべしである。
“カシャッ……”
どこからかシャッター音が鳴った。
僕は探し当てたメガネを目元に掛け、シャッター音の聞こえた方へ視線を向ける。
「……ああ、おはよう、爽子さん」
ファインダーを覗き込みながらもう一度シャッターを切り、君は微笑む。
きっと、今撮影された画が君の満足のいくものだったのだろう。
爽子さんは微笑んでいた。
僕に声を掛けられたことで彼女はファインダーから視線を外して、そして僕を見て同じように微笑んだ。
「おはよう、鹿目先生」
これは、僕と爽子さんの不思議な2か月間の話であり、
また、
彼女の闘病記録である。
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