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この出会いは
あの世はどこにありますか?
そう問われたら、あなたは何と答えますか?
もちろん僕も知っていますよ。
今僕達がいるところが此岸で、向こう岸が彼岸なのは。
でも、そんな難しいことをこのキラキラ目を輝かせて返事を待っている女の子に言えるわけないじゃないですか。
「お兄ちゃんは、天使ちゃんじゃないの?分からないの?」
「えっ」
幼い女の子は考え込む僕に痺れを切らしたようで、僕の純白の羽を見つめながらそう言った。
この純粋な女の子には僕の羽がみえるようだった。
「確かに僕は天使だけど、天使になったばかりでね…」
「どこの新人も教えてもらえないのね」
女の子の大人びたセリフに僕はごめんよ、としか言葉が出て来なかった。
次の日も次の日も僕が行くところにはいつもあの女の子がいた。
女の子と顔をあわすたびに世間話などをしたり一緒に遊んだりと、なかなか楽しい毎日を送っていた。
僕は一度揚げパンを食べてみたいと言った時は、女の子が給食の揚げパンをこっそりと持ち帰り半分をむしり僕にくれたことなど。
僕はこういう生活をしたかったような。
他の天使たちには、楽しいだろうが人間と関わるのはほどほどにと釘を刺される毎日。
そんなある日、女の子の祖父が亡くなっていることを知った。
僕と出会う少し前のことだった。
だからあの時女の子は僕にあの世のことを聞いたのか。納得がいく。
女の子とのお話ではいつも祖父との思い出を語っていた。お母さんに隠れて二人で苺を食べたり、押し花を作ってくれたりなど。
女の子はそんな優しいおじいちゃんが大好きだったようだ。
会いたいだろうな。
僕は天使でもキューピッドの方だから何もしてあげられなかった。
ある日、僕はいつも出会う場所で女の子を待っていた。いつもは先に来ている女の子だったが今日はいない。
しばらく待っていると、遠くの方に子供たちがもめているのが見えた。その中にあの女の子がいたのだ。あの子は泣いていた。
「!?」
僕は急いで女の子の元へ飛んで行った。
「大丈夫かい?」
僕は女の子の涙を拭いてやると、いじめていたであろう子たちは走って逃げていった。
「天使ちゃんありがとう…。もう大丈夫だよ」
女の子は真っ赤になった目で僕にいう。
「あの兄弟、いつもいじめてくるの。今まではおじいちゃんが助けてくれてたけど…」
女の子はそこまで言うとすぐに黙り込み僕の手を握り、
「今日はお母さんが揚げパンを作ってくれてるの、一緒に食べよ!」
と笑顔になり僕の手を引っ張った。
本当にこのままでいいのか。とも思ったが女の子がぐいぐいと腕を引くのでとりあえずは揚げパンを食べに女の子の家に行くことにした。
家ではお母さんが女の子の帰りを待っていた。
僕は天使の友達と紹介され焦った。
母親は一瞬驚いたようだがすぐに笑顔で、確かに可愛らしい子ね、と温かく招き入れてくれた。
「お母さん、お兄ちゃんには格好いいわねっていうのよ!」
親子のふんわりした会話に頬がゆるんだ。
家には祖父と女の子の写真などが、たくさん飾られていた。
僕は女の子と二人では食べきれないほどの揚げパンを頬張った。
女の子は食べながら僕が持っていた弓を見ていた。
「あの弓で天使の仕事をしているのね」
「まあ、これだけじゃないけどね」
僕はポケットから赤い糸を取り出した。
「わぁ、綺麗な赤い糸ね」
「弓が使えないときにこれを使うんだよ」
「へぇ~そうなのね!」
女の子が赤い糸を覗き込んだとき、母親がティーポットを持ってきた。
母親はにこやかに
「この子、祖父がいなくなって泣いていることのほうが多かったのに、最近はお友達ができて毎日笑顔で帰ってくるのよ」
母親はティーポットを置き、キッチンへと戻った。
それからも僕と女の子との交流は続いた。
明日は女の子の誕生日だ。
僕は赤い糸を握りしめ、ずっと遠くまで飛んだ。
次の日、僕は急いで女の子の家へ行った。プレゼントを渡しにだ。
きっと喜んでくれるだろう。
僕は女の子に赤い糸で出来た糸電話を手渡した。
女の子は久しぶりに祖父と話した。
電話越しの二人は楽しげに笑っていた。
その間僕は祖父と女の子の写真を見ていた。
一枚一枚、どの写真も笑顔で写っていた。
その中で、女の子と同じぐらいの年の男の子の写真があった。
この男の子をどこかで見たような…。
「ふふっ、あの母親は一目で分かったんだな」
結局、女の子にはあの世はどこにあるかは言えなかったけど、あの子とまた出会えたのは何か縁があったからに違いない。
あの子が僕の妹で良かった。
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