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「ああ、来た来た。彼方も颯斗も、おはよう。今年1年、よろしくね」
「おはよう、夏樹。また同じクラスになれて良かった」
「だよな、だよなっ!? いやー、お前らと同じクラスになるって、早くも今年全ての運を使い果たした感じだな!」
新しいクラスに入ると、 教室の黒板に席順が書かれていた。窓際の席に座っていた夏樹が爽やかな笑顔を浮かべて右手を振っていた。僕と颯斗は、自分の席に通学用のカバンを置いて、夏紀の元へと歩み寄った。
教室の中は新学期特有の雰囲気に包まれたいて、同じクラスになった仲間たちで、早くも派閥が形成されようとしていた。
「ぼくらの担任、聞いた? ほら、この学校で1番若い山本先生。ぼくが1番好きな先生だよ」
「うお、マジで!? 何で始業式でしか分からない情報をお前が!? ってか、江里美ちゃんがオレたちのクラスの担任とか、めちゃくちゃテンション上がるぜ! なっ、彼方っ!」
「絡むな絡むな、首を絞めるな。担任が誰なのか興味はあったけど、別に僕はそこまで……」
窓際の1番後ろの席で盛り上がっていた颯斗と夏樹に混じっていた僕の視界に、ふと1人の女の子の姿が目に入ってくる。
その女の子は僕が話したことのない人で、かろうじて名前を知っている程度の人だった。その女の子は誰とも話すことなく、手元にあったスマートフォンを見ていた。もちろん学校に携帯電話を持ってくることは禁止だったけれど、みんな暗黙の了解でカバンの中に常備されていた。
「気になる? 水瀬愛菜のこと」
「えっ?」
僕の視線に気がついていたのか、椅子に座っていた夏樹に声を掛けられる。慌てて視線を戻したけれど、夏樹は開け放たれた窓から入って来る風に髪を靡かせながら、不敵な笑みを浮かべていた。
こういうときの夏樹には、全てを見透かされているような気がしている。どことなく人の心を読むことが得意な夏樹は、不思議な雰囲気を纏っていることが多かった。
「あまり友達は多くない方だからね。去年彼女と同じクラスだった人も少ないし、まだその人たちも来ていないみたいだね。ぼく的には可愛いと思うけど、彼方はああいう子が好みなのかな?」
「い、いや、別にそんなんじゃ……ただ、あんな子いたっけかなって思って」
「はっはっは! あっちからすれば、お前も同じようなものだぞ! いつもオレや夏樹の影に隠れてるからな!」
「お前が目立ち過ぎなんだよ。基本的に声デカいし」
まだ話したことのない水瀬さんの背中を見ながら、僕は担任の山本先生が来るまで、颯斗と夏樹と一緒に時間を潰していた。
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