てるてる坊主は、誰かの死体。

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「えー、雨だよー。てるてる坊主嘘つきー」  妹は空を仰ぎながら不満そうに口を尖らせる。  おそらく「てるてる坊主を吊るせば晴れる」と思っていたのだろう。まだ幼い彼女には低気圧や梅雨前線など理解をするのは難しい。  あっという間に雨が地面を濡らす。外気もひんやりとしており、髪も服も濡れた私たちも風邪をひきそうだ。 「ほら、帰るよ」  私は妹の小さな手を取るが、妹はまだ団地の窓を見上げていた。 「ねえねえ、てるてる坊主も大きく作ったら晴れるのかな?」 「え? どういうこと?」  いきなり何を言い出すかと思ったが、妹の目は好奇心で輝いている。 「ほら、あそこのおうち、でっかいてるてる坊主が吊るしてあるよ!」  妹が指差した団地の窓には、確かに黒い影がゆらゆらと揺れていた。だが、私にはどう見てもあれがてるてる坊主には見えなかった。  嫌な予感がする。とてつもなく、嫌な予感がする。 「帰るよ! 風邪ひいたら嫌でしょ!?」  全身の悪寒を感じながら、私は半ば強引に彼女の手を引いた。  大きなてるてる坊主の正体なんて、中学生でも想像できた。だから私は家から帰った後すぐに母親に相談し、彼女たちを団地に向かわせた。  あの団地に警察が向かったのは、妹が大きなてるてる坊主を見つけてから一時間が経った頃だった。  小さな田舎の村だ。大きなてるてる坊主の正体はすぐに広まった――あの団地に住んでいた男性が、首を吊って亡くなっていたということが。  妹には大きなてるてる坊主の詳細は話していない。彼女が指したものが死体だったなんてことなどショッキングなことは話せられない。いや、そもそもたったの五歳児に理解できる訳がない。少なくとも私たち家族はそう思っていた。  だから、あの日の警察沙汰の出来事は私たち家族の中では「なかったこと」と処理されていた。  そうして話題性を封じ込めているうちにあの団地での時間も風化し、幼い彼女が見た大きなてるてる坊主は記憶の底に消えていった。 ――そう思っていたのに、だ。
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