てるてる坊主は、誰かの死体。

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「こーら、もっとシャキッとしなさい」  場にそぐわない気の抜けた姿に思わず先に躾の言葉が出た。  私の声で妹の肩がビクッと竦み上がる。完全に油断していたのだろう。「姉ちゃん……」と私を呼んだ顔は引き攣っていた。  妹とは七つも年が離れている。この年の差のせいで子供の頃は彼女の世話をしているような感覚だった。だからだろうか、たとえ大人になっても未だに彼女のことを子供扱いしてしまうのだ。  一方、妹はこんなに口うるさい姉に対しても寛容だった。 「仕事は大丈夫なの?」 「うん、なんとかなった。ごめんね、遅くなって」 「いいのいいの。こっちは半分ニートみたいなものだし、暇してるから」  平謝りする私に向けて、妹がヘラッと笑う。 妹は物書きだ。仕事の傍ら小説を書いていたが、先日ついに勤めていた会社を辞めた。今は主婦をしながら地道に小説を書き進めているらしい。  片や私はケーキ屋のオーナー。幾人のパティシエを雇っている経営者だ。自営業なものだから休みもまちまちで、周りとはなかなか休みが合わなかった。  そんな中、妹が会社勤めを辞めたことによりフリーな時間が増えたので、こうして姉妹水入らずでランチをしている訳だ。  ちなみに今回のランチは妹の退職祝いも兼ねている。それなのに私は大遅刻してしまった。姉の風上にもおけない。  けれども妹は全然怒った様子はなかった。彼女いわく、「小説のネタを練っているから無限に時間をつぶせる」のだそうだ。  先程も私にはぼうっとしているように見えても、彼女は自分の中で新たな世界を作っていたのだろう。
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