てるてる坊主は、誰かの死体。

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* * *  あれは、まだ妹が五歳の時だ。当時中学一年生だった私は妹を連れて近所の公園に来ていた。  公園といっても、団地の中にあるこじんまりとした公園だ。鉄棒と砂場とブランコしかない小さな公園だったが、それでも妹は満足していた。 「姉ちゃん! 押して押して!」  公園について早々、妹はブランコに駆け寄って私にねだった。  ブランコが好きな妹はこの遊具だけでも三十分は時間をつぶせる。鉄棒も砂場も彼女には眼中がなかった。  あの日もいつも通りブランコに乗った妹をゆらゆらと揺らしていた。ブランコが揺れるたびに「キャッキャ」と笑う妹が可愛くて、何度せがまれようが苦ではなかった。  けれどもしばらくして、妹が「ちょっと待って!」と声をあげた。妹がそんな声をかけることなんて今までなかったので、私は不思議に思いながらも漕いでいた手を止めた。 「ねえねえ、あれ見て。てるてる坊主!」  妹が元気な声で団地の窓を指す。彼女が指した一室の窓には子供が作ったであろうてるてる坊主が吊られていた。 「私、知ってるよ。てるてる坊主を作ったらお空が晴れるんでしょう?」  妹が目を輝かせながら私に言ってくる。おそらく、保育所で身につけた知識を私に見せつけたかったのだろう。  得意げに言った妹だったが、肝心な雲行きは怪しかった。さっきまで晴れていたのに、みるみると雲が太陽を覆い隠していくのだ。  じんわりと雨のにおいがする。これはひと雨来そうだ。  そう思ったら、まるで答え合わせでもしたかのように空からポツポツと雨が降ってきた。
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