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人さし指を下唇に当てながら、ううーん、と考える雨宮。眉間にしわを寄せ、もちょもちょと口の中でなにやら唱えている。
彼女の人生では、すべての雨音が違うメロディなのだ。ゆえに、一番を決めるのはなかなかに難しいのかもしれない。
雨宮は俺に向き直り、おもむろに小さく息を吸った。
「色々あるけどー、やっぱり智也っちとこうして駄弁りながら聴く雨音かな。少なくとも、わたしはとても心地いいよ」
上目遣いで無垢な瞳を向ける雨宮に対し、俺は全身が熱くなるのを感じた。胸の奥がそわそわする。
そんな俺のようすを察し、脇腹をしつこく小突き、雨宮が目を細めてくる。
「おやおやー。んふふー。どうしたんですかー。お顔が真っ赤ですぞお? 智也っち」
「う、うるせー、バカ! おまえのせいで風邪引いたんだよ」
俺は雨宮に傘を押しつけると、全力で走った。雨しぶきが俺の全身を叩いていく。雨が勢いを増す。
雨音のメロディが快く思えた。
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