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「んでさ、雨が降って喜ぶ人もいれば、悲しむ人もいる。わたしはもちろん喜ぶ人だねー」
にへらーとおどけた調子で、雨宮は自分を指さす。
「だろうな」
「そう考えるとさー、雨音は十人十色の数だけあるってことにならないかな?」
哲学じみた話はよくわからないが、あるような気がする。
現に、俺と雨宮は同じ雨音を聴いているが、きっと同じようには聞こえていない。そういうことだろう。
「これはすごいことだよ。わたしは今この瞬間、二度と味わえない音を耳にしているんだから」
「そういうもんなのか。俺には、ただただうるさい音にしか聞こえんが」
残念ながら俺の人生に雨音に聞き惚れる瞬間はなかった。雑音の一つにすぎない。
「まったく、智也っちは風情がないなー、もう」
拗ねた雨宮の横顔を垣間見ながら、俺はふと疑問に思った。
「じゃあ聞くが、今まで雨宮が聴いてきた雨音の中で、一番よかったのってどれなんだ?」
これだけの雨音を聴いてきたんだ。忘れられない、すばらしい雨音があるに違いない。
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