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ゆり子は俺から、体以外何も受け取ろうとしない。
外で会う時は安くていかがわしそうな宿を
ゆり子が予約してカネを出し、
何か食べたい時は、コンビニや弁当屋で買ったものを持ち込む。
ゆり子のアパートで逢う時は、夕食は別々に済ませ、朝だけ、
ゆうべのご奉仕の代償ではないのだろうがゆり子が作り、
一緒に食べていた。
俺の部屋へは来ない。
買い物をしたり映画や舞台を観たり、
どちらかの家で鍋をつついたり評判のいい店で食事をする
などということはなかった。
それこそ、「大事な恋人」じみたことは、
ゆり子は注意深く、何一つしないよう気を付けているようだった。
好意を拒絶されたのに加えて
体だけ与えてくれればいいのだ、
と俺に分からせるために受け取らないのかと思うと
無性に腹が立って来た。
飼い猫だって俺よりは遠慮なく飼い主の懐に潜り込んでいる。
「そうですか」
ゆり子に背を向け寝ころぶ。
「俺…萎えました。今日はできません」
別に萎えたわけじゃないし、できなくないだろう。
拗ねるのはみっともないと思う。
でも今日は意地でも誘いにも命令にも従いたくない。
少し沈黙があって、足元あたりでゆり子の足音がした。
畳がかすかにへこむ。
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