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「あ。」
体を与えられないのならここに居る理由もないのだと
突然気づく。
「俺、帰ります。できないなら居たって仕方ないですよね」
我ながらトゲのある言い方だと思いながら体を起こした。
振り向いて面食らう。
ゆり子は毛布を広げ、俺に掛けようとしていた。
「冷えるよ。…帰らないで。」
ゆり子はあっけにとられている俺の肩まで毛布で覆い、
腕を軽く押して寝かせようとする。
俺は押されるままゆり子に背をむけた体勢で、
畳の上に敷いた小さな絨毯の上に体を沈める。
ゆり子は今度は服のまま毛布に体を入れてきた。
背中にぴったりと体を寄せてくる。
「椎名さんはあっちで寝てください。風邪ひきますよ。」
うろたえた声になる。
「ううん。私もここで寝る。
できるうちにしておく。
私とは、彼女が出来るまでの間遊んでくれればいいの。
だから、ね。
あんな大事なもの、持ってきてはだめ。私が勘違いするもの」
-勘違いってなんだ。
驚きで一度引っ込んだ腹立たしさがまた込み上げてくる。
「背中、広いね」
ゆり子が背中に頬を寄せた。
指の感触が数回肩甲骨のあたりを行き来する。
脚を摺り寄せてくる。
うふ、と鼻にかかった小さな笑い声がした。
俺は身じろぎ一つできない。
心臓がそれこそ早鐘のよう打つ。
鼓動が背中を通して伝わるんじゃないかと
気が気じゃなかった。
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