Belgian chocolate~恋とフーガ 番外編2~

6/11
前へ
/11ページ
次へ
「あ。」 体を与えられないのならここに居る理由もないのだと 突然気づく。 「俺、帰ります。できないなら居たって仕方ないですよね」 我ながらトゲのある言い方だと思いながら体を起こした。 振り向いて面食らう。 ゆり子は毛布を広げ、俺に掛けようとしていた。 「冷えるよ。…帰らないで。」 ゆり子はあっけにとられている俺の肩まで毛布で覆い、 腕を軽く押して寝かせようとする。 俺は押されるままゆり子に背をむけた体勢で、 畳の上に敷いた小さな絨毯の上に体を沈める。 ゆり子は今度は服のまま毛布に体を入れてきた。 背中にぴったりと体を寄せてくる。 「椎名さんはあっちで寝てください。風邪ひきますよ。」 うろたえた声になる。 「ううん。私もここで寝る。 できるうちにしておく。 私とは、彼女が出来るまでの間遊んでくれればいいの。 だから、ね。 あんな大事なもの、持ってきてはだめ。私が勘違いするもの」 -勘違いってなんだ。 驚きで一度引っ込んだ腹立たしさがまた込み上げてくる。 「背中、広いね」 ゆり子が背中に頬を寄せた。 指の感触が数回肩甲骨のあたりを行き来する。 脚を摺り寄せてくる。 うふ、と鼻にかかった小さな笑い声がした。 俺は身じろぎ一つできない。 心臓がそれこそ早鐘のよう打つ。 鼓動が背中を通して伝わるんじゃないかと 気が気じゃなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加