Belgian chocolate~恋とフーガ 番外編2~

1/11
前へ
/11ページ
次へ
街を抜けると雪になった。 湿った寒さがまとわりついて来る。 沿道の雑木林には、うっすら雪が積もり始めている。 さすがに街を離れると寒さも違うようだ。 ヒーターのつまみを一つ上げる。 外の景色ぜんぶが青白く見えるのは、雪のせいだろう。 カーラジオから、ギターの音が聞こえてくる。 雪がちらついている、こんな夜には似合いそうな曲だ。 バッハのBWV1001番、フーガだ。 謹厳で、暗鬱で、人の一生を思わせるような深さがあって 忘れられない曲。 ゆり子がサークルの合宿で月光を浴びながら つっかえつっかえ弾いていた曲だ。 ギタリストの奏でる音色が、 耳の中でゆり子のつっかえながらの音色になり、 次第に篠田悠祐の、その容貌と同じく端正で 繊細な音色に変わっていく。 -俺は、不安なのかな。 もう3年以上も前の事にも関わらず。 篠田は大学に残って研究者となり婚約者もいる。 篠田は最初からゆり子とは、 同じサークルメンバーという以外何の関係も無い。 ゆり子が一時期篠田に恋心を抱いていたというだけだ、 ゆり子の許へ車を走らせているのは俺なんだと言い聞かせ、 なんとか自分を落ち着かせようとする。 -…でも、貰ってくれるかな
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加