鬼子母神

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鬼子母神

沖合に停泊しているクルーザー船 船室から月子の悲鳴が聞こえてくる。 抵抗を続ける月子を、嶋がと称して暴行しているのだろう。 本国からは月子の回収命令が出ている。 殺さない程度に痛めつけて楽しんでいるのだ。 出航までには十分な時間があった。 タキは甲板で煙草を吹かしながら空を見上げた。 青空が広がり大きな雲が浮いている。 スクランブルなのか演習なのかはわからないが2機の戦闘機が低空飛行で頭上を 飛んでいき、その後を哨戒機が追いかけていた。 月子が本国に連れていかれれば、もっと詳しく深淵を調べられた後に、恐怖と思想教育で工作員に仕立て上げられる。 特殊能力持ちの工作員は重宝されていた 世界は平和だった… これから迎えに来る友好国の船に乗り換え入港し、空路で本国に帰れば任務は完了する。 いつも通りの展開の筈だった。 以前に月子は笑って言った。  「自分は怪物だと… 先生も私も怪物だから私達は友達になれる」 その時は中学生らしい単純な発想だと思い笑ってしまった。 世界はそんなに単純ではない。 殺しあい、奪いあう、そんな憎しみの しがらみの中でタキの手はどんどん血に まみれその身体には怨嗟が染みついていた だから月子にはこう言った 十分人間だよと… 日本には鬼子母神の話があった。 タキはその話を聞いた時、随分と都合の 良い話に聞こえた。 改心して善行をしたところで喰った子供達は二度と帰ってこない。 タキにはもうわかっていた。 息子がこの世界にはいない事を… それでも何百年も息子を探し続けた。 それがタキの存在理由だったからだ… タキは煙草を踏みつけると水晶の数珠を外し船室に降りた。 ソファーには月子を殴り疲れた嶋がニヤニヤしながら酒を飲んでいた。 傍らにはボロボロになった月子が倒れている。 「オマエも一杯どうだ?」   タキは嶋の後ろに周ると一気に嶋の首を 捻った。 嶋の首は不自然な方向に曲がると動かなくなった。 タキは月子を抱き上げると甲板に向かって歩き出した。 月子は朦朧としながらタキを見つめている。 隣りの部屋から異変に気がついた2人が出てきた。 甲板に出て月子を下ろす キリアから貰った水晶の数珠を月子の制服のポケットにねじ込んだ。 タキが月子を残して船室に戻ると2人の男は銃を構えていた。 「動くな 何をしている」 それには答えずタキは部屋の片隅にあったジェラルミンケースを盾にすると片方の男にタックルしていった。 発砲音がして何発か当たったが致命傷にはならなかった。 ジェラルミンケースを男に叩きつけて 怯んだ男の背後に周ると首を捻った。 後1人だ… 男の死体を盾にして間合いを詰めていく 充分近づいた所で死体を投げつけると相手はバランスを崩しよろけた。 タキが襟首を掴むと、揉み合いになった 相手はタキの腹に6発を打ち込んだが、それと同時にタキはそのまま渾身の力で男の首を捻った。 ゴキッと鈍い音が船内に響き、2人が倒れ込むと辺りは静寂に包まれた。
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