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屋上
タキは作ったスペアーキーで屋上のドアを開けようとしたがその日、屋上の鍵はかかっていなかった…
今から10分ほど前、月子の鞄に付けられた発信機は屋上に向かっていた。
今日は屋上の日か…
タキはおもむろに立ち上がるとゆっくり屋上に向かって歩き出した。
魔法陣でも描いて悪魔の召喚でもしているのかもな…
そういう子をこの国では中ニ病と呼ぶらしい、それなら平和でいいなとくだらぬ妄想をしながら階段を登っていく。
それにしても女子中学生に発信機とは…
まるでストーカだなと嫌気がさした。
早く白黒つけてしまいたい…
自分で日本にいくと決めておきながら、どうやって確認をとるかも考えてなかった事を今更ながら後悔していた。
まぁいつもの事かと苦笑いする。
彼女の左眼は深淵なのか?
彼女の中にいるのは、正真正銘の水上月子なのか、それとも赤城一族の頭領だった赤城勘次なのか?
タキは回りくどい事が苦手だった。
いっそ単刀直入に聞いてしまおうかと無謀な事を考えているうちに屋上についた。
扉を開くと夏の初めの匂いが風と共に流れ込んでくる。
辺りを見回すと屋上の柵の向こう側で、足を投げ出して座っている水上月子を見つけた。
コイツは何をやってるんだ?
タキは唖然とした。
一歩前に出れば、たぶん死んでしまう。
月子はタキがいる事に気づく様子はない
ただひたすら、何もせず景色を眺めているように見えた。
タキはその似ても似つかぬ後ろ姿に、赤城勘次を重ねていた。
何百年も前にアヤメを殺した男
何百年も前に生皮を剥がされ殺された男…
もし赤城ならこの手で葬りたかった。
「おい水上、眺めはどうだ?」
タキが声をかけると、少女は驚いたように振り返る、高いところが好きなのだと照れ笑いを浮かべた。
危ないから早く戻りなさい。
タキは手首につけた水晶の数珠を外すと
月子に手を貸した。
手が触れた瞬間、月子の笑顔が曇る。
少女は手すりに足をかけ、タキから腕を支えられると制服のスカートがめくれるのも気にせず、軽々と手すりを乗り越えてみせた。
細身だか、しなやかでいい筋肉だなと
タキは感心していた。
「いつもあんな処で景色を眺めているのか? オマエ暇そうだな…」
「今日はたまたま屋上が開いていたから眺めていただけです。 今井先生こそ、いつからそこにいたんですか?」
月子は少し演技がかった膨れっ面をして答える
月子はじっとタキの顔を見ていた。
滝はまた数珠を手首に巻き直すと
「煙草を吸える場所を探していたんだ…
もし時間があるならウチの陸上部に入らないか?
部員は少ないし、水上は早く走れそうないい足をしてる。」
「何だかイヤラシイですね…
それセクハラですよ。ちゃんと下に短パン履いてますから。」
先刻とはうって変わり月子は無表情で答える。
「よかったら考えておいてくれ…
急がないが中学生活は短いぞ。」
タキは振り返ると手を振りなが戻っていった。
帰りの階段でタキは十分手答えを感じていた。
抜け目のない彼女の事だ、今の会話だけで多くの事を察しただろう。
後は彼女自身がどうしたいのか決めればいい。
タキにとっては彼女が赤城勘次でないという事がわかっただけで十分だった。
勘次なら、あれだけの殺気を送られて平然としていられるわけがない。
ただ…
もう少しだけ彼女を近くで見ていたいと思った。
ソレは深淵に対する興味なのか、少し心を病んでいる中学生への親切心なのかは
タキ自身もわからなかった。
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