芙美と月子

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芙美と月子

月子の左眼が蒼く染った。 芙美は落胆していた。 教祖が死に、マスコミに叩かれた教団は 信者を減らし、世間から消えていった。 芙美は、このまま穏やかに時間が過ぎてくれる事を祈っていた。 何日か前に、月子は友達とトランプをしていると、友達の心の声が聞こえると言い出していた。 遂にこんな日がきたかと思った。 教祖の持っている何かが、月子に遺伝しているのではないかと、芙美は以前から心配していた。 月子は8歳になっていた。 医師に、この子の父親の左眼も青かったんです。 とは口が裂けても言えなかった。 検査の結果は異常なく、眼の色が変わってしまった原因は不明のままだった。 芙美には、もちろんわかっていた。 全ての元凶があの教祖にある事を… 教祖の妙な力が、この子にも影響し今のような状態になっている事は明らかだった。 教祖を殺しても全てを丸く収める事は出来なかった… 月子は、そんな私の気持ちがわかるらしく塞ぎ込み元気がなかった。 そんな日が2、3日続いた。 「ねえお姉ちゃん」 月子はこの日、珍しく機嫌が良かった 「なあに?」 月子はニヤニヤしながら背中にかくしていた物を差し出した。 「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう」 ソレは手作りのジェルキャンドルだった 「月子ね この前の校外実習の時にこれ作ったの キャンドルの中にね、お姉ちゃんの好きなもの、いっぱい入れたんだよ」 透明なジェルキャンドルのなかには、女の子と猫とケーキの飾りが沈めてあった 女の子は自分のつもりなのだろう。 「ありがとう 月子…」 私はそう言うと泣きだしてしまった。 月子は一瞬困った顔をした 「お姉ちゃん うれしいの?」 私は言葉を出せず頷く 「うれしい時でも 涙がでるんだね」 不思議そうな顔で、そう言った月子を ギュッと抱き寄せた。 「お姉ちゃん… あったかいね」 月子は囁く。
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