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今井
耳が潰れ、腕が太い、窮屈そうに椅子にハマるように座りパソコンを操作する男が1人…
今井は教務室の自分の机で水上月子の管理情報を覗いていた。
なぜタキが今井という偽名を使い、臨時教員として日本の私立中学校にいるかといえば、話は半年前にさかのぼる。
検索AIが見つけ出した深淵のようなもの…
学会で発表した医師の名前から勤務している病院を割り出すと、電子カルテに侵入して患者情報を抜きとる。
他国のデータベースにも侵入し情報操作を得意とするこの国の技術なら、これくらいは赤子の手を捻るより易しい…
結果、当時8歳だった仁科月子の名前と住所を突き止め、日本のエージェントに
現在の様子を問い合わせた。
タキがこの国に飼われている大きな理由はココにあった。
研究と称して、息子の情報を探るには最適な場所だった。
また海外を飛び回るにはパスポートが必要だが、何百年も生きているタキにそんな物があるはずもない…
この国で働けば、いくらでも偽の経歴を
作ってくれた。
これは奇妙奇天烈な研究を国ぐるみで行う酔狂と、人外の異邦人の利害が一致した結果だった。
胡散臭い処には、胡散臭い人が集まる訳だ… とタキは自嘲する。
日本に渡り、担当のエージェントと接触した。
彼は、禿げ上がった頭と出っ張った腹を抱え、いつもハンカチで汗を拭いていた。
何度か会って打ち合わせをしたが、別れて数分後には、頭と腹と汗かきの印象しか残らない…
どうしても顔が思い出せないのだ
プロは違う… と妙に納得した。
仁科月子は、私立中学校の2年生になっていた。
両親は月子が生まれてすぐに、事故死していて親権者の姉の結婚に伴い、仁科から水上に姓が変わっていた。
成績は上の下で、生活態度も問題無し
家庭環境は少し特殊そうだが資料からそれ以上の情報は得られなかった。
備考欄には
(左目、色素異常の為カラーコンタクト使用、生活指導の際注意)
の記入がある
鬼が出るか蛇が出るか…
たぶん彼女の左目は病気のせいだ、深淵であるはずが無いと思っていた。
でもそれならば何故、俺はココにいる?
もし彼女の眼が深淵なら…
月子の中身がヤツなら…
俺は…
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