浦島太郎

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浦島太郎

「♪昔 昔 浦島は 助けた亀に連れられて…」 タキは日本に向かう途中の飛行機で うたた寝をしていた。 現実と夢の間のまどろみの中、遠い昔に アヤメが一太に歌っている童謡が流れている。 ふと目が覚めて我に帰った。 2人の夢など最近は見る事は無かったのにな… 久しぶりの日本で少しナーバスになっているのかも知れない。 左手首に巻いている水晶の数珠にそっと触れる。 タキが生まれた島には、少し変わった浦島太郎の伝説があった。 漁師の浦島太郎は、亀を助けると竜宮城に連れて行かれるのだが、美しい浦島太郎をみた乙姫は一目惚れをしてしまう 妻子が待っているから帰りたいという浦島太郎を、乙姫は竜宮城に閉じ込めてしまった。 乙姫は仙であるため、歳をとらないが浦島太郎は違った… 年々衰えていく浦島太郎の容姿を、乙姫は嘆いた。 人魚の肉を食べれば不老の力を得る… 人魚の骨を煎じて飲めば永遠の魂を得る という… しかしソレは体に合わなければ死んでしまう事もある劇薬だったが、乙姫は迷わず浦島太郎に人魚の肉を食べさせた。 仙である乙姫にとっては老いていく という概念がない。 美しい浦島太郎が老いていく事は悪でしかなかったからだ… 浦島太郎は一週間の昏睡のすえに生還した。 永遠の若さを手にした浦島太郎を乙姫は 囲い続けた… ある日、浦島太郎は乙姫の隙をついて 竜宮城を逃げ出した。 やっとの思いでたどりついた生まれ故郷は誰も知る人がいない村になっていた。 時間が経ち過ぎていた… 浦島太郎は船に乗ると蓬莱に向かって旅立った。 まるで誰かのようだ… とタキは思っていた。 おそらくはコレは遠い昔の実話ではないかと考えていた。 仙であるはずの乙姫でさえ、元は人間だったのではないか? だからこそ浦島太郎を囲い、永遠の伴侶としたかったのだろう。 もしこの話が実話だとして、タキには疑問が残った。  昔話には煎じて飲めば永遠の魂を得るという… アヤメは不老の力を狙った赤城一族の刺客に殺害された… 結局、その赤城一族でさえ領主から裏切られて一族は皆殺しにされた。 タキは深淵の眼を持った赤城一族の頭領が生きたまま生皮を剥がれ、見せしめに晒された死体を見た。 耳も鼻もない赤黒い塊の中に虚な蒼い眼だけが残されていた。 もしアヤメが、人魚の肉か骨を持っていたなら? 領主から逃げ延びた赤城一族がいたら? 人魚の骨の力で永遠の魂とやらを手にしたものがいたら? 全ては仮定で疑問符は尽きなかった。 答えは日本にある… そしてタキはまた、まどろみの中に落ちていった。
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