嵐の夜

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嵐の夜

「司も眠れないの?」 私が起き上がった気配を感じ、優里が私に声をかけた。 おそらく優里もこちらを見ているのだろうが、部屋に灯りが無い為その表情を伺い知る事は出来なかった。 私は何も答えず、暗闇の中で優里を見ていた。 部屋の湿度は高く、生温い空気は優里の匂いをいつもより濃密にしているような気がした。 2人は表情も見えない暗闇の中でお互いを見ていた。 部屋には沈黙が流れ、窓の外では風が鳴り雨が激しく打ち続けた… そんな沈黙を優里が破った。 「少し暑いね… 冷たく無いかも知れないけど、冷蔵庫から飲み物を取ってくる。」 懐中電灯をつけ、私の枕元を這うようにしてベットから優里は降りた。 その直後に、ドンという地響きと共に閃光が走り部屋がビリビリと震えた。 優里の手から懐中電灯が離れ、床に転がった。 小さく悲鳴をあげバランスを崩して倒れそうになる優里を、司は後ろからベットに引き戻した。 「あぁびっくりした…司、ありがとう」 そう言われた後も、後ろから優里を抱きしめた腕を私は離す事が出来なかった。 また沈黙が訪れた。 優里の心臓の鼓動が聞こえる。 腕には半袖シャツだけで下着を付けていない優里の胸の感触があった。 優里の心臓の鼓動がドンドンと早くなっていく。 ソレに呼応するように、耳の奥でも自分の鼓動が激しく脈打っていた。 「ねぇ司… お姉ちゃんと地獄に落ちる覚悟はある?」 優里は私の手を解くと振り返った。 「あるよ優里 初めからずっと…」 優里は私の手を自分の胸に当てるとキスをした。 近くにあっても手に出来ない ずっと待ち望んでいた物がそこにはあった… このまま地獄の果てまで優里と落ちて行けたら本望だった。 優里は嘘つきだった… 優里は私を残して、父と地獄行きの火車に乗り逝ってしまった。 そして私は優里のいない虚無の中に1人取り残された。
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