人外

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人外

タキは水上月子の観察を続けた。 とはいえ慣れない教師業務の方が大変で6月も後半だというのに、未だに月子との直接のコンタクトは実現していなかった。 全く大した特別観覧席だよ… タキは書類仕事を片付けながら嶋を恨んでいた。  教師の仕事は多忙だった。 教師をやる為に日本に来たんじゃねーぞ と思わず漏れ出した心の声を、誰かに聞かれたんじゃ無いかと慌てて辺りを見回す。 時間外の教務室には自分しかいない… それでも多少の収穫もあった。 彼女は放課後に1人で屋上に行く日が、月に何回かある事がわかった。 屋上には鍵が掛かっていたが、彼女は何故かその鍵を持っているようだった。 そしていつも30分程、屋上で時間を過ごしていた。 一言でいえば彼女は、目立たない生徒だった。 目立たないというより、カメレオンのような保護色をまとっているといった方が正しいのかも知れない… いつも楽しそうな笑顔で友達と過ごし 生活態度も問題無く、ソコソコの成績で 何の不自由も感じさせない学校生活 何処にでもいる女子中学生にしか見えない。 タキには、そこが気に入らなかった。 何だか綺麗にまとまりすぎている… タキは何百年も生き続ける人外の者だった。 人外の者が生き続ける道は二つ… 力を誇示し大多数の者の上に立つか、上手に力を隠して大多数に紛れ込むかだった。 月子には左目の色素異常があり、それは彼女にとって大きなハンデとなっている筈だった。 そんなコンプレックスを克服して、充実した学校生活を送っている健気な女子生徒なのかも知れないが… しかしタキには、そうは思えなかった。 コンプレックスを抱えた人間は、大なり小なり歪みが出るのが普通だ。 それは時間をかけて消化していくもので 普通の中学生が一朝一夕に出来るとは考え難かった。 月子はもっと大きな何かを隠す為に、集団に埋没するフリをしているようにタキには見えた。 例えば 人の感情が読めるとか… 人魚の骨の力で何百年も転生を繰り返しているとか… タキは屋上のスペアーキーをこっそりと作り、月子が屋上に登る日を待っていた 以前、彼女の後をつけて屋上に出ようとした時は外から鍵をかけられて出られなかったからだ… 彼女が鍵をかけた屋上で一体何をしているのか見極めようと考えていた。
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