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というわけでこの席に着くまでに、李翰の生涯目標は毒の除去薬を入手して後宮を脱出することだけになっており、そんな耳には、目の前の碧眼・絢爛大富豪の話があんまり入ってきていない。
しかし、大富豪は李翰になおも話しかけてくる。
「まあ、小説家ですって?」
少女と美女のあいだのような年頃の女子だ。
地毛で結った大髻は雲と湧き、雲のあわいからは光柱さながら珈(かんざし)がたれこめる。
珈というだけでも宮中最上級の格式を表すのに、素材は神々しいまでの白角だ。
衣服はあろうことか曲裾の深衣だ。民の着る直裾の三倍の布を要する。それも絹だ。
布地にあしらわれた有角の羊の刺繍ときたら、千年に一度の彩雲だ。
指先に至っては十指とも様子の異なる、一尺近い絢爛な金細工の護指(付け爪)で、神話世界に出現した十個の太陽だ。
これを大富豪と呼ばずして何と呼ぼう。
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