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それにしても、あてなる場所を表すのに、紫霞たなびく、なんて表現があるが、あれは真実、紫の霞が漂っているものなのだな、と李翰は感心する。
運び込まれるときに麻袋の布目から見えたが、ここは麟後宮のほぼ中心、游仙宮なる建物。その一室らしい。この宮、とにかく紫の霞がたゆたっている。
「いかがしたのよ黙りこんで、さては、ようようこの場が分不相応だと察したの、末学ぶぜいが。ほうら、せっかく参ったなら芸のひとつも陳べて妾の無聊を慰めよ。狗の皿の一枚でも褒美につけてくれてよ」
富豪女子にそう言われて、思う。
たしかにこれは好機かもしれない。
この場で人心を掴めば、後宮脱出も容易になろうというもの。
李翰は深く思索し、しばらく脳内で真摯かつ緻密にとっておきの創作を練った。
満を持して唇に言の葉を乗せる。
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