窓の内と外、あるいは私と彼の話。

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 そのあとも、ほとんどの時間を庭に面した窓の前で過ごした。  あたたかな日差しにお腹を向けて眠り、風を子守歌にまどろむ。たまには窓の外をじっと見つめて見張りをすることもある。  だけど、雨が降る日に窓の前で過ごすのはやめてしまった。  だって、どれだけ雨音が激しくなっても彼が窓の前に――私の世界に来てくれることはもうないのだ。  だから今日も窓に背を向けるようにして置かれたソファの上で、耳をふさぐようにして丸くなっていた。  雨の音を()って聞こえてくる私を呼ぶ家族の声にのそりと顔をあげる。何度も名前を呼ばれて私はようやくソファから飛び降りると二階の部屋にあがった。  そして――。 「大怪我した状態でうちの庭の隅っこに隠れてたのよ。事故にでも遭ったのかしらね」  目を丸くした。  家族の一人に抱きかかえられていたのは仏頂面の彼だった。 「ずいぶんとケガもよくなったし、うちの子とごあいさつと思ったんだけど……仲良くできる?」  家族の言葉を聞きながら私は白い毛が生えていたはずのお腹をじっと見つめた。ハゲて痛々しい傷跡があらわになっている。 「ハゲネズミに興味があるのかい、白猫のお嬢さん」  憮然とした声に彼のお腹から黄色い目に視線を移した。  私はパチパチとまばたきしたあと、ゆらりと白い尻尾を揺らした。 「ハゲネズミに興味はないわ。でも、おなかの白い毛がどこに行ってしまったのかには興味があるの」  彼はゆらりと黒い尻尾を揺らして仏頂面を崩すと苦笑いを浮かべた。 「俺も知りたいところだ。ハゲネズミのままというのはみっともなくて敵わん」  彼を見上げて私はゆらり、ゆらりと白い尻尾を揺らした。 「ハゲネズミのままでも構わないんじゃないかしら」  窓の外では激しい雨音がする。  ハゲネズミではあるけれど、濡れねずみにも濡れ猫にもなっていない彼を見つめて私はすっと目を細めた。 「ハゲネズミさんでも、私はまた会えてうれしいもの」  彼はゆらり、ゆらりと揺らしていた黒い尻尾の動きをピタリと止めて、ふいとそっぽを向いた。  そして――。 「……そうか」  ぶっきらぼうな声で言ったあと、黄色い目をこちらに向けるとはにかんだ笑みを浮かべた。
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