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明日はやっと日曜日…雨音は目覚まし時計をセットせずに枕に頭をおいた。
「ゆっくり寝ていいんだよ」と自分に言ってから寝るのが日課だ。
変な癖だが不思議と身体の力が抜けてよく眠れる。
明日は何も予定はないし、ゆっくりすれば良いと思っていた。
雨音は高校を出て、九州の小さな町から関東の、この地に就職のためにやって来たのだ。
心身に障害のある人たちが入所している県下でも最大級の施設だった。
この仕事に就きたいと思ったわけではなく、とにかく生まれた土地から遠く離れた所で一から自分の力だけで生きて行きたかった。
それには、理由がある。
雨音は、生まれたてで夏用のベビー服を着せられてバスタオルを幾重にも敷いた状態で施設の玄関に置かれてあった籠の中で泣いていた。
籠の中には達筆な字で
「雨音と名付けました。7月7日生まれです。どうしても育てることができません。宜しくお願い致します」
そう書いた手紙が添えられていたそうだ。
所長さんが「お前は捨てられたんじゃない。我々を信じて託して行かれたんだ」といつもいつも言ってくれていた。
就職の第一条件は「寮か社宅に無料で入れる会社」だった。
この職種は、なり手が少ないこともあってか福利厚生はしっかりしていたので決めた。職種ではなく生きていく為の条件が先だったのだ。
まだこの地に来て3ヶ月足らず、雨音の未来は手探りで始まったばかりだった。
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