翠雨〜翠の歌〜

5/5

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
〜催花雨〜 あれ以来、あの時の出来事が忘れられずにいた。 いつもの道をいつものように歩く・・ 翠はふと、立ち止まった。 『伝えたい』驟空は言った。 わたしは? 翠は自問自答していた。 私はなんで歌うの? 心の中でけぶっていたものが翠を刺激する。 人影まばらな駅のコンコース まるでステージのようで・・ 歌いたい ただ、歌いたかった 軽くハミングをして響きを体に取り込むと 湖面を走る風のように コンコースに歌声を滑らせた。 思いつく限りの歌が翠を通り抜ける。 翠だけの歌。 体と心が共鳴している 何もいらない 残らなくてもいい 感情が音となりあの日のように 湧き上がる音楽が唇からほとばしる。 翠の歌は行くものの足を止めていた。 耳に入る歌声が琴線に触れ聞く人の心をざわつかせる。 聞く人もまた、けぶる雨の中で視界を失っていたのだ。 気がつくと驚くほどの群衆が翠の歌を聴いていた。 翠の歌はひとりひとりに降り注ぎ 心の花に咲けよ咲けよとせきたてて染み渡る雨音のようだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加