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目の前で笑うお前を見つめながら、俺はお前に出会ったときのことを思い出していた。
お前に初めて出会ったのは高校だった。初めて会った時、これが好きってことなんだとおもったな。
それまではクラスの女子のことが好きだと思っていたのに、お前に会った途端俺はお前が好きになった。お前の笑顔が好きだった。
俺が男子だったのは良かったことなんだろうか。友達としてなら、異性よりも近づきやすい。でもそこまでだ。友達から先はない。
お前が俺と同じように同性のことが好きだったら良かったのに。そうしたら、まだ可能性があったから。
仲良くなっていくほど、好きだと言えなくなっていった。好きだといえばもう二度とこの関係には戻れない。そんなふうに悩んでいたあのときの俺を、今でも時々思い出す。
お前が彼女のことを楽しそうに話すたび、俺はお前の彼女を嫌いになった。お前の彼女より俺のほうがお前と一緒にいた時間が長いのに、俺はお前の隣には並べない。
彼女と喧嘩したとき「お前はいいよな、女子にもてて」と言ったお前に、俺はどんな顔をすればよかったのだろう。
仲直りをしたと嬉しそうに言われて、俺はお前が喜んでいることが嫌だった。そんな自分のことも嫌だった。
お前と別の大学に進むことになって、そんなことを思うことももう無くなるのだと思った。少しほっとしていた。
同性を好きになって、告白できなくて、終わり。そんな、後から思い出す甘酸っぱい青春の1ページになるんだと思った。
就職先がお前と一緒になった時は流石に驚いたな。柄にもなく、もしかしたら、なんて期待した。そんな事あるわけないのにね。
「ありがとう、みんな」
そんなふうに幸せそうに微笑んでるお前を見ると、これで良かったんだと思う。お前が幸せならそれでいい。
でも、もう俺はお前の結婚相手にかなわない。一緒にいた時間も、知っていることも、もうかなわない。高校生の時から好きだったなんて言っても、それはお前の結婚相手も同じだもんな。
「笑顔が素敵だね」
お前は本当に、心の底から嬉しそうに笑うなあ。俺はいまでもまだ、心の底で何かが焼き付くような痛みを覚えるのに。
「だろ、美波は笑顔が本当に可愛いんだよ!」
風景が滲む。もう、絶対に、かなわないんだなあ。
「わっ! なんで泣いてんだよ〜。大丈夫か?」
ずっとお前は優しいな。俺はお前が彼女と喧嘩したときに喜んでいたのに。
「大丈夫だよ。ほら、美波ちゃん待たせんなよ!」
なあ、俺、お前のことがずっと好きだったんだ。誰よりも、誰よりも大好きだったんだよ。
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