Non-sweet coffee jelly

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Non-sweet coffee jelly

 母の死を悼まず、涙一つ流さない娘である私。  遠くにいる政治家の死が悲しくて、涙をこらえきれない私。  どちらも私で、これが現実だ。  いまだに私のことを非常識だと罵ったり、そんな親子いるわけがないと笑う人がいる。しかし、それは当然のことだ。自分に同じ出来事が起きない限り、人間は共感できない生き物なのだから。優しい人間だけが、誰かの気持ちを理解しようと心を傾ける。  涙が止まらない。このままでは目が腫れ上がってしまう。テレビを消し、何度も深呼吸する。推しているバンドのアルバムを脳内で再生させ、目をつむった。一曲目の歌詞は、亡くなった魂全てに祈りを捧げようともがく、生き残ってしまった人間の苦悩を描いている。  ここまで立ち直るのに数年が必要だった。今では仕事も順調で、趣味もある。一日一食が三食になり、食べることの喜びも覚えた。自由に外出できるようになり、空を見上げる日が増えた。夜に家を出て、天体観測することだってできる。体の傷が癒え、ファッションを楽しむこともできるようになった。自由も楽しみも何一つなかったあの頃とは、もう違うのだ。  生きることが楽しい。だから、ここにいる。  顔を洗うため、洗面台へ向かった。あの政治家は確か、肉じゃがが好物だった。あの野球選手が好きだった桃をデザートにしよう。祖父母が喜んで食べていたかぶの漬物もある。今日はストロベリームーンが見える日だ。幸い天気はいいようだし、月を見ながら亡くなった人たちに想いを馳せよう。  残された人が辛いのは、いつの時代も変わることはないだろう。もしかしたら、確認する術がないだけで、去っていく人たちも辛いのかもしれないのだから。これから先、死という概念が変化していくことがあっても、人間の感情だけはコントロールできない。  だったらせめて、残された私は前向きに毎日を生きていこう。辛いことも苦しいこともあるけれど、たくさんの優しい出来事が私を助けてくれる。今までもらった優しい人たちの想いが、一歩を踏み出す勇気をくれるから。  脳内のアルバムは、雲間から射す光をイメージした曲が再生されている。  身支度を整えると、私は戸棚の上にある祖父母の写真に声をかけた。 「いってきます」   了
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