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祐希はこの日、世界の全てに違和感を持った。
まずは、両親に対してだ。朝食の席で、会話のテンポが噛み合わなかった気がしたのだ。赤の他人から飯事を強要されたような齟齬に首を捻りながら高校に行くと、一年一組の異様さが、祐希の違和感を決定づけた。
クラス一のお調子者は参考書に齧りつき、内気なはずの生徒はグループの中心で開けっぴろげに笑っていて、極めつけに見知らぬ生徒がクラスメイトとして席に着き、代わりに何人かの生徒は教室から痕跡ごと消えていた。祐希が唖然としていると、悪友の堂島旭が欠伸をしながら現れたので、急いで救いを求めて駆け寄った。
「あ、旭! 教室が変なんだ!」
「変?」
学ランをだらしなく着崩した友人は、切れ長の目を訝しげに細めたものの、まだ眠そうに首をゆらゆらさせた。襟足が長めの黒髪も、怠さに呼応するように揺れている。旭は室内を雑に見渡すと、ハッと笑って嘯いた。
「別に普通じゃん。それより祐希、昼飯は学食な。今日はあんかけ炒飯の曜日だ」
「僕の話、聞いてるっ?」
必死の訴えは、無慈悲なチャイムに遮られた。続々と席に着く生徒たちを目で追ううちに、またぞろ元はクラスメイトではないはずの人間を一人見つけた祐希は、頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。間違い探しの絵本の中へ、放り込まれた気分だった。
もはや、頼りになるのは己だけだ。そう打ちひしがれた瞬間に――頭が痛み、視界が白く発光した。
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