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日中の暑さを残しつつも、朝夕は冷え込むようになった十月。北海道の高校への進学が決まった。コーチにもチームメイトにもまだ伝えておらず、一番に佐玖に言いたかった。だけど連絡先がわかならない。合同練習も試合もない。
大きな大会は十一月に入るまでない。それでは遅い。早く伝えたかった。なのに伝えられない何とも歯がゆい気持ちがずっと続き、試合後の疲労以上の息苦しさを覚えて胸が痛くなる。息ができない。
夜練が終わり、たまたまシーリオンズの後にエンペラーズの練習が入っていたので、今日こそは伝えられる!と意気込んでいたが、練習が始まっても佐玖は来なかった。今日は何かの用事で休みなのだろう。
塾で大事なテストがあるとか、明日学校で大事なテストがあるとか……テストでも練習は来いよ、バカ野郎。
息苦しさは苛立ちへと変わっていた。何で連絡先くらい聞いておかなかったんだろう。昔からの顔見知りなのだから、連絡先を交換するくらいしてもよかったのに。付き合えないからといっても、ホッケー仲間であることに変わりない。これまでも、これからもずっと。だから連絡先を聞いてもおかしくないはずだ……たぶん。
諦めてスケートリンクを後にすると、外は雨が降っていた。結構な大降りだったのに、リンクの中では雨音の一つも聞こえない。
車の走り去るエンジン音が、雨音を分断するように聞こえた。ふと顔を上げると、暗闇の中、人影がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。たどたどしい走り方は、大きなバックを背負っているせいだろう。片手にはスティックも握りしめられていたが、傘はさしていない。
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