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今まで何度か女の子に告白されたことはあったが、男に告白されたことはない。女の子に告白されてもすぐに断っていた。仲のよかった女の子も、顔さえ知らない女の子も同様に全て即決で。
でも今は、少なくとも即決ではない。理由は自分でもよくわからなかったが、ホッケー以外に興味はなくて、女の子に時間を取られるのもイヤだと思っていたのに、佐玖は俺の大好きなホッケー仲間だ。ライバルチームといってもホッケーの話ができるし、一緒に練習できるし、そういうことを考えていたからすぐに断ることができなかったのかもしれない。
それとも今までのようにすぐに断ればよかったのだろうか。どちらにせよ、付き合えないなら断るしかない。
「ごめん、そこまで深く考えてなかった」
「だよね。そうだろうなとは思った」
俺より背の高い佐玖は、背中を丸めて少し儚げに微笑んだ。陶器のように白い顔が若干蒼白く見える。
「うん、ごめんな。付き合えないわ」
「ううん、ちゃんと返事してくれてありがとう。オレのこと……イヤになった?」
「イヤになってないよ。何でそんなこと聞くんだよ」
「男からの告白とか気持ち悪いでしょ」
告白されたときのことをもう一度思い出してみる。今まではすぐに断っていたのに今回は違った。断らなかったのはやっぱり、イヤではなかったからだと思う。
「気持ち悪くないよ。気持ち悪かったらすぐに断ってるし」
「そっか……そっか」
佐玖はほっとしたようで、じんわりと頬を緩めた。
「おい、早く戻ってこーい!いつまで休憩してんだ」
キャプテンの蓮に呼ばれ現実に引き戻される。隣にいる佐玖を見ると、もういつもの佐玖の表情で、全く気持ちが読み取れない。でもどうしても嫌いにはなれなくて声をかけた。
「中学校最後はエンペラーズに勝つからな。今年はまだ一度も勝ててないけど、次は負けない!」
佐玖は微かに右手に持っていたスティックを上げた。
よかった、俺も嫌われてはいないみたいだ。なぜかそんなことを考えなが氷上に戻った。
氷の固さは上々、スケーティングも弾むようによく滑った。
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