前世の記憶~夏の思い出~

1/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
”ずっと愛していた貴方は、今どこで何をしているのでしょうか” 愛する人を思いながら、海がよく見える丘で、大きな葉桜の木に手を当てる午後10時。 視線を上にあげるも、空は雲で覆われていて、星も月も見えやしない。……今日は、七夕だというのに。 深いため息が、私の口から零れる。 私はずっと、この日を待ちわびていたのだ。もしかしたら、また愛する人と出会えるのではないかと。 ーー私は、前世を持って生まれてきてしまった。愛の力が強大すぎるあまりに。 そして、七夕の日になるといつもこの葉桜の木の元へと、足が動いてしまうのだ。 ーー前世で愛していた、彦星という青年を探して。 「ねぇ、私はもう、あの人とは会えないのかな」 木に話しかけてみるも、答えなんて返ってこなかった。 「そりゃ、そうだよね。木が、話してくれるわけないか」 力なく笑うと、私は木に背を向けて、その場に座り込んだ。 「私は、いつかきっと会えるって……信じているから」 突然、私を襲う睡魔に耐えられずに、私はそのまま目を閉じてしまった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!