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水分を減らす試みは頓挫した。他にも色々試した。植物が苦手とする酢酸、つまり酢酸ナトリウムを点滴で注入したり、酸素飽和度を上下させたりだ。その他、通常では考えられないような奇妙な実験が夢の体に行われている。
当然同意の上でだが、それで死ぬ可能性があるといわれても、放って置いても夢は死ぬ未来しか無い。だから様々な、俺たちが思いつかない方法を提案する桜川には感謝している。
「それでご実家の言い伝えは確認できましたか?」
「はい。一応調べましたが荒唐無稽な話です。何か役に立つとも思えません」
「それは伺ってから判断します」
「けれども、大昔の祟りとかそういう話ですよ」
「昔は多くの病の原因は祟りとされていました。言い伝えがヒントとなる可能性はある。例えば禁足地に踏み入れることで祟りが発生するのなら、その禁足地の奥に病原菌が存在し、そこから抗体が作れるかもしれない」
全ては雲を掴むような話だ。この奇病は祟りの類に思われた。
俺と弟は旧家の出だが、縁者はすでにない。両親が存命のころ、俺たちが双子であることを気にかけていた。理由は教えてもらえず、言葉尻を濁した。
それが気になり何かないかと、自宅敷地に長年閉ざされたままの蔵をあけて資料を探した。数十年誰も立ち入らない埃がつもったその奥で、ボロボロの書物を見つけて手をとると、所々虫食いながら、流麗な文字が書かれていた。
寛永3年のことだ。
当時武家であったこの家の当主は主からの命に従い、妻子とともに南方に赴任した。あてがわれた屋敷には大きな植物園があった。ある月の大きな夜、奥方とともに庭に出ると、植物園から1人の美しい男が現れた。
そこで何事かが話し合れ、男が奥方の手を取れば、月の光が陰るようにその男はサラサラと姿を眩ませた。なお、話し合いの内容の部分はボロボロで、読めなかった。
その後、その家に双子が生まれた場合、一方を捧げ、残った方は長命となったという馬鹿馬鹿しい話だ。そんなことがあってたまるか。
「その捧げ先がこの植物なのかな」
「信じるんですか? こんな荒唐無稽な話を」
「信じてはいない。けれども君たちの先祖は信じたのだろう。それならばそこに何らかの機序がある可能性はある」
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