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機序。
夢に植物が生えた日、それは突然のことだった。
二人で夕食をとっていると、夢が突然倒れて意識を失った。救急車で運ばれたが異常はなく、貧血と診断された。それから1ヶ月経つうちに夢の体調は急激に悪化し、喘息で再入院した。
検査すると肺に影がある。肺癌の疑いで手術したところ、肺の中でエンドウ豆状の植物が育っていた。
そんな馬鹿な、誤診だと騒いだが、見せられた肺組織片にはモジャモジャともやしのような細白い蔓が生え絡まっていた。それでも信じられずにいると、目の前で更に切開され、中まで白い蔓が詰まっているのが見え、思わず嘔吐した。
「大丈夫? でもまぁ、全部取ったよ。俺は手術は得意だからさ。これから生検するけど大丈夫なはず」
「あの、何でこんなことに?」
「原因はわかんないけど、ないこともない」
「植物が生えることが?」
「うん。俺も前に学会誌で同じような症例を見たんだけどさ、植物の種が気道に入るんだ。だいたいは蒸せて吐き出すんだけど、たまに残って発芽するらしい」
「そんな馬鹿な」
目の前の久我山奏汰という名札をつけた医者は、少し困ったように微笑んだ。
「でも本当にあるんだよ。なんなら後で論文探そうか。肺の中というのは適度な温度と湿度、水分に酸素があるから植物の育成には適するらしい」
馬鹿馬鹿しいと思ったが、親切にも自宅に論文が送られてきた。本当にそんな症例はあるようだ。
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