朔の夢

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 俺と桜川は九州に飛んだ。文献には双子が生まれた場合に訪れるようにと植物園の場所が明記されていた。昔は双子が生まれた場合、俺たちの先祖は本当に片方を捧げに行っていたのかもしれないと身震いした。そんな馬鹿な。けれども俺には夢しかいない。絶対に渡さない。  そこは駅から遠い山村で、既に荒れ果てていた。 「桜川先生、どうされるおつもりです?」 「さて、行かなければわからない」 「そんな化け物なんているはずがない」 「朔、世の中は理屈がわからない、解明されてないものばかりだ。未知の病など最たるものだ。そのうち機序のわかったもののみを科学と呼ぶ。わからない限りは祟りや呪いと同義だ」  桜川の説明は頭では理解できなくもない。けれども。 「化け物に会えば解決するとでも?」 「わからない。それがどのような形で実在するのかも」 「実在?」  植物園の男の実在。かりに実在したとても、既に何百年百合のことだ。今も実在するはずはないし、仮に実在するのなら、それは正しく化け物なのだろう。けれどそんなものはいるはずもない。  けれども夢の、植物が生える病というものも、他に例のないものだ。 「朔。可能性は極めて低くとも、対処が検討しうるということは恵まれている」 「夢がですか!?」 「通常は遺伝子異常、特に極めて特殊な遺伝性疾患に治療方法などない。前に話した通り、夢の病をもたらす遺伝子異常の原因が先祖のウィルス感染等にあるのならば、その原因となった特殊なウィルスの研究ができれば抗体を作る可能性が生まれる」  体から発生する異物。遺伝子に組み込まれた病。それは朔にとっては現実として存在し、桜川の中では既にあり得る病となっていた。
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