咀嚼音源収集デート

3/13
前へ
/100ページ
次へ
「ムシャムシャ……」  めっちゃこっち見てる。 「シャクッ」  立ち上がった。 「モシャモシャモシャ」  隣に座った……。 「ゴクン……」  頬杖をつきながら、うっとりした目で見てくる……!  まるで猫にまたたびだ。 「美味しい?琴美」  トロトロの笑顔、甘い声。  耐えきれなくなって、乱暴に箸を置き彼を調理室の外へ連れ出した。 「困ります!あんなこと!」  誰もいない倉庫前。  副社長と言えど、かなり強めに訴える。  このままじゃまた変な誤解をされてしまうかもしれないし、せっかくの炊き込みご飯に全然集中できやしない。 「何が?」  それなのに副社長は、全く悪びれもせずにキョトンと目を丸くさせるだけだった。 「聞いてましたよね!?そ、」  咀嚼音。  そう言いかけて、彼の名誉の為にごくりと呑み込んだ。 「……だって君の音、すごくイイから……」  恍惚として真っ赤になる彼に、流石にゾワッと鳥肌が立ち始めた。 「とにかく、社内でこんなことは、もうやめてください!副社長にとっても百害あって一利なしですよ!」  捨て台詞を吐くように彼から背を向けた瞬間、逆に勢いよく腕を掴まれ引き寄せられた。  そのまま壁際まで追いやられると、両腕で囲まれ身動きが取れない。 「ちょっと……」  あまりの剣幕に言葉を失い、鼓動がけたたましく脈打つ。 「じゃあ、社内じゃなきゃいいの?」 「は!?」  目が据わってる。  呼吸が荒い。 「連絡先教えて」  耳元で囁かれる声が心の弱い部分に刺さりすぎる。 「お願いだから」  どうしてこんなに必死なの? 「…………あの」  とにかく、こんなところを誰かにみられたら大変だ。  そろそろ休憩も終わるし。 「社運がかかってるから……」 「社運?」 「君の音を聞けたら、いい仕事できると思うから」 「………………」  めちゃくちゃ断りづらいように言ってきた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

843人が本棚に入れています
本棚に追加