食べる前に殴る蹴る

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「ラスト一本!」  トレーナーのかけ声と共に、最後の力を振り絞って腕を振り上げた。  滝のような汗が滴り、呼吸するのもやっとだ。 「はいお疲れ!」  終了の合図と共にリングにへたり込んだ。 「なんだ琴美(ことみ)、かっこわりぃなあ」  幼なじみの大志(たいし)がリングの外からニヤリと嘲笑うけれど、相手にする余裕もなかった。  彼に誘われて始めたキックボクシング。  率直に言って辛すぎる。  だけど辞めるわけにはいかなかった。  理由は一つ、たくさん食べる為。  食べることが大好きな私は、たくさん食べる分運動しないとすぐに太ってしまう。  運動の辛さよりも、食事をする幸福の方がウェイトが高い。  そう思ってなんとか続けられている。 「帰り焼き肉食って帰ろうぜ!」 「賛成!」  これでカロリーはプラマイ0だ。  トレーナーの人に笑われながらも、口が焼き肉になりつつリングをまたぎ大志の元へ走った。
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