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「有村さん、これは……」
「鍵は琴美が持ってて。それで寝る前に俺が自分の部屋に戻ったら、テーブルに置いてすぐに自分の部屋の鍵を締めて。そうすれば、手出しできないから」
「何言って!」
今こんなこと言うのって狡い。
急激に、男女二人で生活するという生々しさを意識してしまった。
「そ、そんなことしなくたって大丈夫ですよ。信用してますんで。
それに、私のことなんて手を出すほどの」
「いや、めちゃくちゃ我慢してる」
そんなこと明け透けに言わないで!
心臓がバクバクして、震えが止まらない。
こんなんじゃ、うどんも喉を通らない。
お腹はペコペコだって言うのに。
こんなの、生殺しだ。
なまごろ……
「うどん、伸びるよ」
まさに生殺しのような表情で身悶えて私を見つめる有村さんに絶句する。
「はい……」
どんなテンションで食べればいいの。
「ズルズル……」
「ぁあ……」
「あつっ……ふぅふぅ」
「はあ……はあ……」
何これ、何のプレイ?
手錠をかけた男性に見つめられながら、うどんを啜るなんて。
「ズルズルズルズル……」
「んっ……ふー、ふー……」
……なんだかすごくいかがわしい。
こんなの毎日なんて耐えられない。
だけど……
うどん、めちゃくちゃ美味しい。
「美味しいです!なんて優しいお出汁!卵と餡になったお汁が麺に絡んで……また、麺の茹で加減が絶妙でっ」
「良かった……いっぱい食べて……」
「ズズズズ……」
「あっ……それはっ……ちょっと……」
「ズズズ!」
「あああ!」
各々が自分の世界に没頭し、夜は更けていった。
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