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インターホンに映った初老の男性。
グレイヘアーと凛々しい顎髭が上品な、まさしく紳士だ。
「はい……」
恐る恐る開けたドアの先で跪いているスーツ姿の彼に早くも言葉を失う。
「初めまして。千明様から言づかって参りました、使用人の勅使河原美登利です」
「は、初めまして。江藤です」
「琴美様、本日は私に何なりとご命令を」
「いやややややや」
なんというエレガント。
なんという濃さ。
この現代にこんな執事まがいの紳士存在したなんて。
流石お金持ちの世界は常軌を逸している。
「というのは冗談です。琴美さん宜しく」
嘘だった。
「え!?よ、宜しくお願いします」
慌てふためく私をくすくす笑う勅使河原さん。
早くも遊ばれてる気がする。
「新生活、何かお困りのことはないですか?じいじが何でも買ってあげますよ」
そんで急に孫扱い。
「だ、大丈夫です!充分なほど良くしてもらってますし、着替えとかも持ってきてますので」
「そんなこと言わずに!千明くんから、お揃いの食器とかハブラシとか、とにかくペアのものを買ってくるように頼まれてますんで」
千明くんって、めちゃくちゃ仲良いじゃないですか!
そしてペアのものって何!
「ささ。じいじとお買い物に行きましょう、琴美さん」
クセツヨなうえに押しツヨで、まんまと彼のペースに流されマンションをあとにした。
「すみませんね、徒歩なんです。このご時世だから、早めに免許返納しちゃって」
「いえいえ、こちらこそご面倒おかけしてしまって」
そんなやり取りをしながらブラブラ歩き、気づいたらあっという間に表参道に。
徒歩で表参道まで来れる距離に自宅があることがまず凄い。
「見てー。素敵なおじいちゃん」
「お洒落だねー」
街ゆく人達が、皆勅使河原さんを見て微笑ましく目を細めている。
お洒落な英国風のスーツが似合いすぎていて、杖やハットも全く違和感がない。
愛想も良くチャーミングで、あっという間に勅使河原さんのファンになってしまった。
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