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最初に訪れた雑貨屋さん。
初めは恐縮して戸惑うばかりだったけれど、お洒落で可愛らしいカップやランチョンマットを眺めていくうちに、心は華やいで弾みだす。
「これなんてどうでしょう?千明くんとお揃いで」
「いいですね!有村さん、白好きそう」
「鋭いですね。千明くんは昔から白が好きで」
「やっぱり!このシンプルな箸置きとかも有村さん好きそう!」
「おお!絶対好き!買う!」
見るからに有村さんのことを愛している、勅使河原さんとの買い物も楽しすぎる。
「お父さんと二人で嫁入り道具買いに来たんですか?可愛いー」
店員さんにそんなふうに言われて顔を見合わせたり。
二人でああだこうだ吟味しながら、結局たくさんのペアグッズを買ってもらってしまった。
「すみません、本当にたくさん購入させてしまって」
食器にスリッパ、パジャマやタオル。
一ヶ月だけなのに、こんなにたくさんいいんだろうか。
「いえ、お役に立てて光栄です。僕も楽しかった」
言葉通り楽しそうに笑ってくれる勅使河原さん。
そうは言っても、たくさんの荷物を持たせてしまっているのは忍びない。
郵送で、と言いかけた勅使河原さんに、貧乏性が発動して「自分で持ちます」と言ってしまい、結局彼に運ばせてしまうことに。
「本当に、私が持ちますから!」
「いいんです!これもじいじの大事な仕事……」
言葉とは裏腹に、だいぶ疲労した顔で汗をかいている。
申し訳なくなってきて、強引に勅使河原さんを近くのカフェへと誘った。
「お待たせしました」
カウンターで受け取ったアイスコーヒーを勅使河原さんの元へ運ぶと、彼は苦笑して頭を下げる。
「すみませんね。ご面倒かけてしまって」
「とんでもない!こちらこそ」
勅使河原さんと買い物するの、凄く楽しかったし。
「なんだか本当にお父さんと買い物してるみたいで、嬉しかったです。それに勅使河原さん格好良いから、一緒に歩いていて鼻が高い」
勅使河原さんはみるみるうちに涙を滲ませた。
「勅使河原さん!?」
「いや、……ごめんなさい。感極まってしまって。……実はね、僕が勝手にしゃしゃり出たことなんです」
「そうなんですか?」
キョトンとする私に、勅使河原さんは気まずそうに口を開いた。
「突然“ぼっちゃま”が女性と住み始めたなんて聞いたもんだから、張り切ってしまって」
まるで父親のような目で語る彼が微笑ましくて、じんわりしながら耳を傾ける。
「有村さんのこと、とても大切に思ってるんですね」
勅使河原さんは穏やかに肯いた。
「ええ。赤ん坊の頃から見てきましたから。彼は聡明で、とても懐の深い方です。本当はもうずっと前に、社長の義明様から解雇を言い渡されてたんですが、ぼっちゃまが拾ってくださって」
「そうだったんですか……」
こんなところからも有村さんの人柄の良さが滲み出る。
「妻にも早くに先立たれ、子供もいない僕は、ぼっちゃまだけが家族のような存在です。あ、ぼっちゃまと言うと彼が嫌がるので。千明と呼んでくれと」
なんだかもっともっと、有村さんのことが好きになってしまった。
「だけどもうこんな老いぼれ、役に立ちません。足手纏いになるばかりで」
「そんなことないですよ」
寂しそうに俯く勅使河原さんを力強く見つめた。
「有村さん、勅使河原さんのこと、とても頼りになる方だと言ってました。お世話になっているとも」
「ぼっちゃまが?」
見上げる勅使河原さんに、ニッコリ微笑んだ。
「きっと、有村さんも家族のように思ってるんじゃないかって。私も今日、勅使河原さんにお会いして伝わりました」
エリートなのに全く威張らず物腰が柔らかいのは、もしかしたらこの人のおかげなのかも。
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