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「もう少しだけ醤油減らしたらどうですかね?その方が食材の香りが引き立つと」
「さすが江藤さん、神の舌を持つ女」
食品開発は楽しい。
とことん美味しいものを追求できるし、完成されたものへの愛着が底知れない。
そして、開発中に出た残りものも食べられる。
「全部江藤さんが食べてくれるから助かるわ」
「フードロスなくてエコだね」
「ありがとうございます!美味しいです!」
炊き込みご飯美味しい。
牛蒡の香りと人参の甘さ、そして鶏肉の歯ごたえ。
食材の出汁が染みこんだ米は、もはや芸術と言っていい。
「アートだ……これは」
「なんか別次元に飛ばされてる」
先輩が笑いながら言った。
「そういえば、今度会社でパーティーがあるって。良かったね琴美、一流シェフの料理食べ放題」
初耳の情報に、思わずご飯を詰まらせそうになる。
「パーティー!?ホントですか!?」
他の社員達も突然張り切ったように会話に加わる。
「そう、副社長の就任パーティー!」
「社長のご子息がさ、ついに帰って来るんだって」
「ずっと海外で暮らしてたんだよね」
「有村千明、31歳。アメリカの有名大学を出て、そのまま向こうの食品メーカーでバリバリ働いてたエリート御曹司!」
「田中さん詳しすぎる!」
最近は、休憩中も副社長のことで話題は持ちきりだ。
正直言って興味がないので、炊き込みご飯の方に集中する。
目を瞑り、呼吸を整えて、神経を研ぎ澄ます。
「……もうあと数グラム生姜足しませんか?」
「休憩中くらい炊き込みご飯から離れようよ」
結局その日は、試作品の炊き込みご飯を3合食べきった。
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