突然の出会い

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 ……何? 「食べてる時の音ですか?」 「はい」  …………何? 「副社長、どうされましたか?」 「あちらでお話しませんか?」  側近の人や女性達に囲まれていく副社長に、どうしていいかわからず踵を返す。 「待って!」  しかし彼はまたもや私を追いかけた。 「皆さん、すみません。一時間だけ時間をください。すぐ戻って来ます」  そう皆に言い残し、突然私の手を握り走り出した。 「ちょっ……何ですか!?」  わけがわからない。 「行きましょう」  ただ一つわかるのは、この状況がまるでおとぎ話のワンシーンのようであることくらい。  嘘みたいだ。  こんなに素敵な、しかも勤務先の副社長と手を繋いでパーティーを抜け出すなんて。  非日常のような出来事に鼓動は速まり、繋いだ手の温もりがくすぐったい。  あとは……お腹空いた。  再びお腹から鳴り響いた爆音に、彼は笑うこともなく振り返り言った。 「この近くにいいレストラン知ってます。三つ星の神谷シェフのお店です」 「神谷シェフって、テレビとかによく出てる……そんなお店恐れ多くて!」  いや、そもそも副社長と何故食事を!? 「僕があなたと食事がしたいんです。付き合って頂けますか?」  先ほどの熱っぽい目で見られたら、途端に何も言えなくなってしまう。 「で、でも早く戻らないと皆心配します」  はにかんで目を伏せながらもじもじするなんて、柄にもない。  だけどこの人に見つめられると、調子が狂ってしまって。 「お願いだ。10分、いや5分でも良い。君と食事がしたいんだ」  真剣な眼差しに胸が高鳴る。  そんなに私との食事を熱望してくれるなんて……。 「じゃ、じゃあ」  目の前に現れた真っ赤な看板を指差す。  ラーメン大熊。家系の風雲児。 「ラーメンはどうですか?」  途端に彼の表情は華やいだ。 ____「……いただきます!」  背脂たっぷりのスープに、中太麺、トッピングの大盛り野菜炒め。  食欲をそそることこの上ない。  まずはスープを一口。   「……あー」 そして野菜のシャキシャキ感を堪能した後、 「シャクシャク……」  お待ちかね、麺の方に移ります。 「ズズズズズ……」  勢いよく麺を啜り、半分ほど食べ進めたところで唐突に隣の彼の存在を思い出す。  上質なスーツを着こなした、麗しい有村副社長を。 「………………」  完全にこのお店から浮いている。  そしてまたもや恍惚とした表情で顔を赤らめ、恐ろしいくらいに私のことを凝視していた。 「あの……副社長」 「続けて……」  彼は僅かに息を荒くさせながら、じっとりとした眼差しで私を見つめる。  こんなんじゃ集中して食べられない。  いや、嘘です。食べるけど。 「有村さんも食べないと、伸びてますよ」 「ああ……そうだった」  失礼なのは百も承知だけど、この人ちょっと変なのかもしれない。  
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