冷たいお坊ちゃまとひまわり

1/1
前へ
/2ページ
次へ

冷たいお坊ちゃまとひまわり

「私は君をメイドと認めない」 冷たく放たれる言葉 冷酷な発言 私はその言葉に立ち尽くす 「え…」 「洗濯やり直し」 私が呆然としていると、衣類をバサバサっと彼が落とす 「えっ、あっ」 私はそれをかき集め拾う 「ふんっ」 上から鼻で笑う声が聞こえ、彼は去っていった な、なんなの!? たしかに私は、まだまだ新米だけど! そんな態度されるようなことしたっけ!? 信じらんない!! 私は見えなくなった彼に向かって舌を出しベーっとした 「こらこら。メイドがそんなことしちゃいけません」 「!?」 背後から突然声が聞こえ、固まる私 そーっと振り返る 「おはようございます」 ニコッと微笑む先輩が立っていた ☆ 「きいてくださいよ!」 私は先輩に先程の出来事を話す 先輩はアイさんといって、ここの御屋敷で5年働いている 黒い髪の毛を後ろでまとめていて、いつも黒いリボンをしている おっとりした優しい先輩だ アイさんと洗濯物を仕分けつつ、手洗いから始める 「ほんと、なんですかっあの、冷たい瞳!」 いつかビームが出るんじゃないだろうか 「…前はそんなんじゃなかったと思いますけど」 じゃぶじゃぶと泡立てる度に水が跳ねる 「そうなんですかっ?」 えーっと私が嘆く 「私も彼の担当をした事がありますが、そんな素振りありませんでした。いつも笑顔で、礼儀正しいお坊ちゃまって感じで…」 「えぇっ?」 なんっで、私だけ…? 気に食わないのか知らないけど、私だって、お断りよ! 私はぷくーっとふくれっ面になる 「まぁまぁ、そんな顔しないで」 アイさんがふふふっと微笑む 「笑い事じゃないんですからー」 私は綺麗になった洗濯物を乾燥場に持っていき、アイさんと一緒に吊るし始める 大体この洗濯物だって、いつも通りに2度洗いしたものだ つまり、3度目… 絶対テキトーに持ってきて、わざとばらまいたんだよ! 嫌がらせじゃん! はぁっと私はため息つく 「これが終わったら休憩時間になりますし、終わらせちゃいましょう」 アイさんがにこやかに言う 「そうですね、食べたらきっと怒りも収まる!」 時刻は1時、メイドのお昼休憩だ クスクスっとアイさんが微笑む 「美味しいもの好きなんですか?」 「はいっ食べると元気が出ます!うち、兄弟多くて、もういつも戦争ですよ!」 私は、兄が1人と妹が2人、弟が1人の5人兄弟 ご飯の時は、おかずの取り合いになる 「へぇ、羨ましいです」 「ひとりっこですか?」 私は最後の洗濯物を干してカゴを持ち上げる 「はい。一緒に食べる人はいますが、取り合いになることは、まずありませんし…」 そういい、アイさんもカゴを持ち歩き出す 「そうなんですねぇ。私は静かに食べたことがないので羨ましいです」 1度は静かにご飯を食べてみたいものだ 「ないものねだりですね」 アイさんがいう 「たしかに、アイさんの言う通りですね」 私はあははとアイさんと笑った ☆ 「よぉ、新米ちゃーん!坊ちゃん担当2日目、どー?」 メイドの休憩室につくと、何人かの先輩が先にお昼を食べていた 「お疲れ様です。もう、最悪です…」 私は、席に座り"いただきます"といい、目の前のご飯に瞳を輝かせる ここは、専属コックがつくった使用人のまかないが出るのだ 隣にアイさんも座る 「聞いたよ、洗濯物3度洗いだって?」 そう聞いてきたのは、この御屋敷に10年仕事しているメイド長、セイラさん メイド長といっても、硬い感じはなく気さくで明るい人 金髪の髪の毛がいつも綺麗だ ポニーテールが良く似合う人だなと思う 「そうなんですよ!お坊ちゃまって、いつもあんな感じなんですか?」 私はパンにバターを塗る 「いやぁ、私の時はそんなこと無かったよ」 「私の時もそんなことなかったかなぁ?」 「逆にそんな態度とる子だったとはね…」 口々に他の先輩も反対する 「えっ、私だけですか??」 「試されてる、とか?」 隣で静かに食べていたアイさんがいう 「確かに私はまだまだですけど、でも、先輩方も担当した時は新米でしたよね!?」 私は思い切りパンをかじった 「まぁ、そりゃぁ新米だったけどっ」 セイラさんがあははっと笑う 「じゃぁ、なんでよ〜!」 私はモンモンとした気持ちでパンを胃袋に詰め込む 「まぁまぁ、頑張って!1ヶ月の辛抱だから」 とセイラさんがニヤニヤという お坊ちゃまには、まだ専属メイドが付いておらず、1ヶ月ごとの担当交代制で、メイドが付く 私は、ここの御屋敷で下っ端として2年経験を積み、今月お坊ちゃまの1ヶ月担当となった こんな調子で1ヶ月大丈夫かな…先行き不安なんですけど 「そういえば、勉強はどう?」 セイラさんが私にきいてくる 「日々頑張っております…でも、難しいところもあって、昨日はテキストと睨めっこしてました」 あははと私は頭を搔く 専属メイド試験というものがある 私は、まだ新米で、専属メイドになるには、この試験に合格して資格を獲得しなくてはならない でも、専属ともなると仕事の幅も広まり難しい 1年前から勉強中だ 試験は1ヶ月後まで控えている 「テキスト丸暗記してたら大丈夫だよ」 とセイラさんはしらっという 「私、暗記力ないんですよ」 「あー、それは頑張れ」 セイラさんが真顔でエールを贈ってくれる 先輩、その真顔が悲しいです… 「でしたら、勉強会開きましょうか?」 「いいんですか!?」 私はアイさんの提案に、ガタッと身を乗り出す 「えぇ、今度の休日。勉強を一緒にしましょう」 アイさんが優しい笑顔で微笑む 「よかったねぇ。優しい先輩がいて」 セイラさんがいう 「セイラさんも優しい先輩じゃないですか。可愛い後輩を心配して勉強の話を出されたんですよね?」 アイさんが微笑む 「なっ!いや、私はぁ、そんなんじゃないから…」 「ありがとうございますっ」 私はセイラさんにキラキラした眼差しを送る 「ばっ、そんな目で見るな!違うから!」 セイラさんは照れくさそうに顔を隠した、その顔は真っ赤だ "あははは、これは1本やられましたね"と他の先輩が笑った ☆ 私は、シーツ交換をする 真っ白なベットシーツをバサッと広げ、端を下に折り隠していく 今度は、掛け布団を広げ整える 真っ白なふかふか枕を置いて完成 「おい」 「はい!」 私は、後ろから突然声がしてビクッとする 「遅い、おわったか」 振り返るとお坊ちゃまが立っていた 「大変お待たせ致しました…」 あれ?と思い、時計を見る まだ、2時半だ 帰ってくるには、早くないだろうか? いつもなら、お坊ちゃまのスケジュールはお稽古の時間のはずで休憩は3時である 「ご主人様。お稽古は…」 「早く終わった。私くらい天才になると、できることが多すぎて困る」 なんなんだろう、この態度…腹が立つ 「それは、失礼しました…では、私は失礼します」 と、私は部屋を後にしようとする 「ひまわり頭、次の仕事は?」 お坊ちゃまに呼び止められ足を止める ひまわり頭?? なにそれ、と思いつつ答える 「次は、3時のデザート確認と、午後のお洗濯、部屋の掃除がまだ残っております」 「お前の好きなデザートはなんだ?」 ふと、そんな事を聞かれる 私の好きなデザート? 「チーズケーキです」 「じゃぁ、今日はチーズケーキだ」 「えっ!突然困ります、今日のデザートはチョコ…」 「私がチーズケーキといっている。チーズケーキだ!」 チョコケーキと言おうとした私の言葉を遮って、吠えるお坊ちゃま そ、そんなぁぁ!! んな、強引な! 「それから、お前勉強はできているのか?」 そんなことを聞かれる 「はい…出来ておりますが」 私はチーズケーキ注文にゲンナリしながら、答える 「頑張りたまえ」 そう、お坊ちゃまがいう 声援送られた? …お坊ちゃまも声援とかするんだ って、さすがに失礼? でも、驚きなのも正直な感想 「なんだ?」 お坊ちゃまが目線を感じたのか怪訝そうな顔をする 「いえ、ありがとうございます」 お坊ちゃまがバカにしたように鼻で笑う 「ふんっ、せいぜいその働かない頭で頑張るんだな」 なっ!やっぱり、この人嫌い! ☆ 「んー……アイさん。ここなんですけど…」 「ここは…」 今日は休日 アイさんが近くの喫茶店で勉強会を開いてくれた アイさんが丁寧に教えてくれる 実際の仕事とテキストは違うことがある なので、実技テストと筆記テストがあるが回答が違うということになる それは、ご主人様によって違うので仕方ないことだ 「休憩、しましょうか。お疲れ様です」 「ありがとうございましたっはぁぁぁ…」 アイさんの声とともに肩の力が抜ける 3時間は勉強している お昼すぎからはじめて、ただいま3時 休日のアイさんの服装は白黒で、やっぱりメイドって感じ でも固くなく、どちらかと言うと白を基調としたしたドレスで首に黒い革チョーカーをしている いつもまとめている黒い髪の毛を今日は横に垂らしクルクルとパーマかかっていた 私もこんな大人になりたいなぁと思ってしまう 私と言ったら、黄色のシンプルなワンピースに特にアクセも付けていない茶髪を左右わけ三つ編みおさげにしている。この髪型は仕事の時とおなじだ いやもう、オシャレとか苦手… 「アイさん。なにか食べますか??」 私はお店のメニューを取る 「んー…そう、ですねぇ」 アイさんはチラッと向かいの席を見る 私も向かいの席を見ると、1人の男性が読書をしながら座っている すごいカッコイイ人だなぁ 黒髪に鼻筋通った高い鼻、キリッとした瞳 ズバリ、イケメン パチッ ふと、目線が合う やばい、見すぎた… スススっと、ゆっくり目線をずらす "カタッ" 音がし見ると、その男性が席を立つ そして、こちらに近づいてきた えっえっえっ! 「君たち、勉強かい?」 そう、声をかけられる わぁぁ、近くで見るとホントにイケメンだ… 声も優しくてカッコイイ! …あれ?男性の首元を見る 黒いチョーカーをしている、アイさんと同じチョーカーだ 「はい、そう、ですけど…」 私は、ゆっくり答える 「そう、勉強ばかりじゃ頭も働かないだろう、ケーキでも頼んだら?僕が奢るよ」 「えっ、いやいや!」 それは悪いと、私が断る 「…遠慮せず、頼んで大丈夫ですよ」 と、にこやかにアイさん "私はモンブランにします"と、決めはじめる 私も、慌ててケーキを選んだ 「じゃぁ、頼んでくるから待っててね」 「あっ、はい。ありがとうございますっ」 男性がレジに向かって行き、レジ横にあるショーウィンドウに並ぶケーキを見ながら注文している 本当によかったんだろうか?? 「あ、あの、アイさん…」 恐る恐る、アイさんをみる 「ごめんなさい、慌てて選ばせてしまって…」 アイさんは、頭を下げる 「えっ、いや、全然!むしろ良かったのかなって…」 「はい。お気になさらないでください」 アイさんがにこやかに微笑んだ 「そうですか…」 「…じゃぁケーキ美味しく食べてね」 戻ってきた男性が優しく声をかけてくれる 「ごちそうさまですっ」 お礼を言うと、彼は"じゃーね"とにこやかに去っていった 私とアイさんは運ばれてきたケーキを食べる チーズケーキは甘く、下のクッキー層がいい触感となって、高級感がある、上品なチーズケーキだった それから、また2時間ほど勉強をして、先輩とはお店で別れた 私はまっすぐ家に帰る 「よしっ、がんばろ!」 私は声を出し、勉強机の上にテキストを広げた ☆ 「ひまわり頭、勉強の調子はどうだ?」 「あ、はい、きちんとしております。その、ひまわり頭ってなんですか?」 私はお坊ちゃまに聞かれて答え、質問する 「ひまわり頭はひまわり頭だ」 お坊ちゃまは、さも当然のように答える 私、茶髪なんですけど… 「資格をとったら、誰かの専属になるのか??」 ふと、そんな事を聞かれる それはここを出るとか旦那様とかってことだろうか? そんなことは考えていない、仕事の幅が広がるし、取っといて損は無い資格だから取るのである 「いえ、決めていません。出来れば、ここで働きたいです」 と、私は素直に答える すると、 「そうか…」 と、なにやら考えている様子のお坊ちゃま なにかあっただろうか?? 「その試験、絶対合格しろ」 「はい……?」 私は、キョトンとする そりゃ、合格はしますとも でも、なぜお坊ちゃまがそんなことを… 「合格した暁には、私の専属だ」 は? 「はい?」 私は本当にキョトンとする 「ん?私の専属メイドに昇進といっているのだ」 お坊ちゃまが、もう一度訳の分からないことを言う 「え、嫌です」 あ、嫌とか言っちゃった… 「!?…なんでだ!貴様、私の専属が嫌だと言うのか!?」 お坊ちゃまが目を丸くする はい、そうです なんて、さすがに言えない 「いや、その、えーと…ハイ」 認めちゃった☆ 「きーさーまー!!!」 きゃーー!! すごい形相で私を睨んでくるお坊ちゃま でも、もう引けない… 「いや、だって嫌です!」 えぇい、開き直りだ 「なんだと!」 「大体なんで私を指名するんですか!?」 「そ、それは!…何だっていいだろう!?私は王子だぞ!」 はぁぁぁ!? 「そんなの理由になっておりません!では、失礼します!」 私は部屋をそそくさと後にする 後ろから"おい待て!"と聞こえたが待ってあげない メイドとして有るまじき行為 ただ、ここで捕まったら殺される! ☆ 「専属メイド断ったの?」 セイラさんがデッキブラシでバスルームを擦りながら言う 「はい…」 私もデッキブラシを擦る 「でも、お坊ちゃま直々の指名。私も聞いたけど、貴方がいいとハッキリと言われたわ」 「そう、ですか…なぜ、私なんでしょうか?」 「…さぁてねぇ。そこまで教えてくれなかったわ」 セイラさんがふぅと汗を拭う 「そうなんですか…」 私はデッキブラシをやめ、ホースを持つ 「でも、指名なんてそうないし。そもそも断るなんて前代未聞」 「やっぱり、受けなくちゃダメですか?」 ホースで水をばら撒き泡を流す 「私は、それを勧めるわ」 セイラさんは泡がなくなったところで蛇口をひねる お湯が勢いよく出る 「あと、2ヶ月。とにかく、勉強に打ち込みます」 「それが、いいわね。掃除もバッチリ、このまま頑張って」 セイラさんがニッコリ微笑む 「ありがとうございます!」 よし、このまま頑張ろう 専属はともかく、資格を取らなくちゃ! 私は気合を入れた ☆ 「お兄様。彼女を専属メイドとは本気ですか?」 「なにか不都合でもあるのか?」 「ありませんけれど、彼女はまだ新米です」 「試験に合格したら問題は無いはずだ、それともメイドの世界には私に分からないルールがあるのか?」 男女が窓辺で話す 男は窓をみる 窓の先には、1人の少女がせっせと廊下の掃除をしていた 「うちには、何人もの専属資格をもつメイドがおります。お兄様は、その何人もを今まで断ってきた、どうして彼女なんですか?妹の私にそろそろ教えてください」 「…セイラ。私は彼女がいい、それだけだ」 セイラと呼ばれた女 そこには、メイド長である綺麗な青いドレスに身を包んだセイラが立っていた 「お兄様。顔がにやけておりますが……」 「!?」 男、お坊ちゃまが顔を隠す 「もう遅いですわ」 セイラはやれやれとため息をついた ☆ 「遅い」 「は、はい?」 今日は休日 なのに、なぜ、彼がここにいるんだろうか… 「まぁまぁ、ごめんなさい。うちの娘が」 母がお茶を出す ここは、私の家のはず いや、私の家だ 気持ちよく寝ていたら、兄に起こされた それも 「お前んとこの坊ちゃんがきてるぞ!」 と意味不明な起し文句で 着替えてリビングに慌てて行くと、本当にお坊ちゃまが座って待っていた ど、どーゆーことなの? 「えーと…」 私は恐る恐るお坊ちゃまをみる 「でかける。付き人をしろ」 「しかし、今日は私…」 休みなの、知ってますよね?? 「これを読め」 と、渡された紙 そこには "おやすみの所ごめんなさい!穴埋めは必ずするから、お坊ちゃまのワガママに付き合ってあげて! セイラ" とセイラさんからのメモ わ、私の休日… 仕方がないのか…これも仕事か… え、やだな でも、断れないよね…行く、しかないか 私、浮かない頭を切り替えた 「わかりました。準備をしてまいりますので、少々お待ち頂けますか?3分もかかりません」 「よろしい」 そんなこんなで、私とお坊ちゃまのお出かけがはじまった ☆ 「これは、なんだ?」 「こちらはヘアピンです」 私はお坊ちゃまと雑貨屋にきていた それも、庶民がよる街の雑貨屋だ 「女がよく付けているものか」 「そうですね」 「これは?」 お坊ちゃまはさっきから女物ばかり手に取る 「それは、カチューシャです。ご主人様、男物はあちらにありますが…」 反対側を指さす私 「いや、いい。今日は女物だ」 「そうですか…」 誰かにプレゼントでもするのだろうか? お坊ちゃまは色んな物を手に取る 「おい、あそこで待っていろ。迎えに行く」 お坊ちゃまが隣のお店のカフェを指さす 「かしこまりました…」 私は静かにカフェに向かった 「あれ…あそこにいるのって」 しばらく待っていると、遠くにお坊ちゃまの姿を見つけた私 隣にはなんと…こないだのイケメンさんが立っていた 「もうひとりいる…」 お坊ちゃまとイケメンさん、それからもう1人を確認して、私はお坊ちゃまの所に走った 「ご、ご主人様!」 「あ、カフェに待っていろと…」 「ですが、姿が確認出来ましたので…それに、アイさんが」 そう、そこにはアイさんの姿もあった 「こんにちは」 アイさんがにこやかに微笑んだ 「こんにちはっ、あの、こないだはケーキご馳走様でした!」 私は、並ぶ2人に勉強会時のお礼を言う アイさんは、こないだ出会ったイケメンさんと一緒にいる それも、彼は車椅子だ 「美味しかったかい?」 「はいっ!」 「それは、よかった」 イケメンさんが微笑む "バサバサっ" ふと、風が吹きスカートがひらめく 「あっ」 イケメンさんのひざ掛けがふわっと風に乗る アイさんがすぐさま追いかけ拾った 「秋風が吹き始めたね。ありがとう」 「ご主人様、寒くはありませんか?」 アイさんからひざ掛けを受け取るイケメンさん ご主人様? 「アイさん、専属メイドだったんですか?」 てっきり、私と同じところで働いてるから、専属はないと思っていた 他で雇ってもらっているのか? そんな、まさか 「え、えと…ご主人様はそうゆうんじゃないんですが…」 アイさんの顔がほんのり赤くなる 「昔はね。今は、僕の恋人だよ」 サラッとイケメンさん こい、びと… 「えぇ!?」 その言葉の意味を理解した私は驚きを隠せない 「それじゃぁ、僕達はいこうか」 「は、はい…」 2人は驚きの私を残して去っていく 恋人、昔はメイド、恋人… アイさん、恋人いたんだ 素敵なカップルだなぁ 「おい、いつまでそこに立っている」 お坊ちゃまに呼ばれ、私はハッとなる 「は、はい!今行きます!」 もう、後ろを歩いているお坊ちゃまを急いで追いかけた ☆ 私はお坊ちゃまをお屋敷に送り開放された 「はぁ、ご飯食べて勉強しよう」 私は家に1人 家族は学校や仕事でいない テキストをめくる そこには印刷された文字と私の文字とアイさんの丁寧な捕捉文字 あれ? こんなの書いたっけ? ふと、途中だったページの下に"まちがってる"と書かれている それは、よく見ると私の文字でもアイさんの文字でもない 「この文字、お坊ちゃまの…」 仕事で見たお坊ちゃまの文字にそっくりな文字 これを書いたのは彼だろう 私はほかのページもめくってみる 「ここも、ここにも…どうして」 至るところに、 "まちがってる" "要チェック" "簡単な問題だから潰すように" と、一言が書かれている いつの間に、私のテキストに書き込んだのだろうか? 私は、少しニヤける あんな性格悪いお坊ちゃんだ そんな彼がこんな書き込み、普通はしないだろう なんとなく、"がんばれ"と言われてる気がした 「間違ってるところから潰そう」 私はノートとペンを握る その日の集中力は、1番早く帰ってくる妹の帰宅、6時くらいまで続いた ☆ 「あ、まただ」 仕事が終わり家に帰ってきて、テキストをめくるとお坊ちゃまの一言が増えていた "基本ができてない" "よくできた" "問題は出来てるが、仕事で出来ていない" "要チェック" 私は1つづつ目を通していく 私はすぐさま机に向かい、ノートとペンを取り出す 「まずは復習から、よし」 私は今日の仕事を思い出しながら、お坊ちゃまの一言を中心にノートにまとめていく そんな日が何日も続いた 相変わらず仕事でのお坊ちゃまは言葉乱暴で我儘だった でも、私はそれに反抗しつつも仕事をこなした いつの間にか、お坊ちゃまとのバタバタは当たり前になっていて、私はイライラしつつも心のどこかで楽しんでいたのかもしれない テキストとノートを何も言わず、お坊ちゃまのデスクに置いていく 本当はメイドの私物を置くのはダメなのだが、お坊ちゃまは何も言わずそれを置きっぱなしにしてくれる 帰る時には少し動いていて、お坊ちゃまが触ったことが分かる お坊ちゃまの一言はテキストに留まらず、まとめたノートをも侵食した 私は私で、分からないところは "分からない" "これがこうだから、こうじゃないのか?" と一言を書き込む すると、なんとお坊ちゃまが一言で教えてくれた たまの休日をアイさんが勉強会を開いてくれたり、そうでない日は決まってお坊ちゃまが家にきて付き人をする日を送った ちゃんとした休日はないけれど、どうせひとりじゃ缶詰になるだけ、2人に感謝した 月日が流れ、いよいよ試験日 アイさんには、大丈夫ですよと背中を押され、お坊ちゃまの一言には "お前ならできる" と書かれていた 素直に嬉しかった 応援してくれる人がいる 私は応えよう、そして資格を取ってやる そんな気持ちで試験を受けた ☆ 結果発表の時刻、昼過ぎ 私は制服スカートをギュッとにぎる 試験の時もそうだったけれど、手汗がすごくてびっしょりしていた 大丈夫、筆記はスイスイとけた 実技だって、いつも通りの仕事をしただけ ひとつも間違えなかった 大丈夫、大丈夫… ドキドキ…ドキドキ… 胸が高鳴る、私の他に数名が受けたこの試験 きっと、合格してるはず…ううん、するの! 「合格者発表します」 試験監督だったアイさんが口を開いた 一人一人、名前が呼ばれる でも、私の名前は最後になっても呼ばれなかった ……不合格??あれだけやったのに? 目頭が熱くなる "コツコツ" アイさんが私のところにくる 「えと、あの…」 私はなんて言ったらいいか分からずいると、 「おめでとうございます」 スっと渡されたアイさんの手には資格合格証明証と資格証 ご、う、か、く… ごうかく…合格だ! 「合格だぁぁ!ありがとうございます!!」 私はそれを受け取り、合格という文字を見つめる 「おめでと、新米ちゃん」 セイラさんがニカッと笑ってくれる 「ありがとうございます!教えてくれたアイさんと応援してくれた皆さんのお陰です。それから…」 "バンッ!" 言葉を続けようとした所に大きな扉が開く音 「試験結果は?」 お坊ちゃまが、立っていた 少し怖い顔で上から聞いてくる 「ご、合格しました…」 私は合格証明証をみせる すると、ほっとしたような、次には微笑んだお坊ちゃま 「よくやった。じゃぁ、私の専属だ」 そんなことを言う 「それ、本気だったんですか!?」 「当たり前だ。今日からお前は私専属メイドだ」 「………」 「なんだ?」 黙る私にお坊ちゃまは怪訝そうな顔を見せる 「わかりました…私は貴方に忠誠を誓います」 お坊ちゃまは、目を丸くする 私が断ると思っていたのだろう 「よかったですね、お坊ちゃま」 セイラさんが微笑みながら言う 「あ、あぁ。そうと決まれば、早く忠誠書を」 もっともちゃんとした専属メイドになるには、忠誠書を用意して、申請を通す ご主人様となる者の承諾とメイド協会委員会の受理が必要だ それをご主人様となる者の前で読み上げ、正式な専属メイドになれる 「わかりました。今日中に申請をだします」 セイラさんが答えた いや、なんて…言えるわけないじゃないか 私のご主人様。 口は悪いし、自信たっぷりの王様、私にだけ当たり強いし、…優しい人 私は単純だ でも、お坊ちゃまのお陰で合格できたこともある うん、この人に尽くそうと思う 「ご主人様、もう仕事の時間では?」 私は時計を見る もう少しで1時だ、休憩が終わる 「あぁ、そうだな。お前もこい」 「はいっ」 私はお坊ちゃま、いえ、ご主人様の後をついていった ☆ 「『忠誠書。 私、スフィはコール様に忠誠を誓う 主人の元を離れず、メイドとして身の回りの事をし、主人に常に気を配ること。 メイド協会より申請、 コール様の専属メイドとなることを認め、ここに記す』」 私は正式にご主人様となったお坊ちゃま、コール様の前で読み上げる 「…スフィ」 「はい」 「ご主人様の命令だ。私のメイドとなったからにはこれをしてもらう」 コール様は、1冊のノートを机に置く 私は、そのノートを取り、開く 『私についてこい』 そのたった一言に笑みがこぼれる 「わかりました!」 私はハッキリと答えた 「それから、これ」 コール様が白い小さく折りたたまれた紙袋を差し出す "ガサゴソ" 私は受け取り、テープを綺麗に剥がし開ける 「これは…?」 中からコロンと転がり手のひらに落ちるそれ 黄色透明なひまわりのアクセが付いたヘアピンだった 「合格祝いだ」 コール様がいう 「ありがとうございます...嬉しいです」 私は、ヘアピンを耳上に止める ガラスのようなひまわりが光に反射する 専属メイド1日目、私の新しい一日が始まった ☆ 私は、ノートをひろげる そこにある、付け足された一言 「お兄様。なにをしてるんですか?」 振り返ると、青いドレスを着た妹セイラがグラスを片手に立っていた 「いや、なんでも」 私はノートをそっと閉じる 「…よかったですね、専属メイド」 「あぁ、あいつならとると思った」 「まぁ、お兄様のことですもの、勉強見てあげたんでしょう?」 セイラはニヤリと私を見る 「そんなことはない、アイツの実力だろう?それに、勉強ならアイが見ていたそうじゃないか」 「あら、私の思い違いかしら?私の時すごく勉強を教えてくれて、お兄様の方がメイドに詳しくなってしまったじゃありませんか」 「それは、セイラが妹だから、兄としての義務を果たしただけだ」 「ふふ。そう言うことにしておきます」 セイラが、"おやすみなさい"と部屋に戻って行った 「……」 私はノートを再度開く 彼女がこの屋敷にきて、はじめて見た時、彼女は緊張な面持ちで、しかしながら笑顔で私に挨拶をした その笑顔が、まるで向日葵のようだったのを今でも覚えている 私は、その時決めた 彼女を私の専属にすると 私は彼女を見れる範囲で監視した はじめての仕事で失敗ばかりで泣いていたことも、初めての仕事をウキウキでしていたことも、怒りながらも仕事には一生懸命なとこも 専属メイドの試験を受けるときいて、私も復習した 妹が訳あってメイドを隠れてしているから、私はメイドの仕事をよく知っていた 大詰めの時、ふと目に入った彼女のテキスト そこには、先輩メイドのアイの一言と彼女の頑張ったであろう跡が書かれていた 私はペンを取りだし、一言をかいた 彼女に合格して欲しいから 私は何も言わずテキストを元に戻した 後日、またテキストと、更にノートが置かれていた ページをめくる、そこには私が指摘した事以上の文字が書いてあった 彼女は頑張り屋で努力家、これなら、と思い私はまたペンを取る 彼女の合格した時のひまわりの笑顔が見れたら…そんな気持ちを乗せて 「私のひまわり。私も頑張らねばな」 ノートには 『どこまでもついて行きます!!』 と、ソフィの文字が書かれていた
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加