白 露

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 濤声楼(とうせいろう)は、数年前、都市計画で立ち退きを余儀なくされていた処、この『日本街』と呼ばれる、独特な地区を納めていた、国王の嫡男ミカエルが、偶然姿を見た白露(しらつゆ)を見初め、そのお陰で、運よく生き残った娼館だった。  ミカエルは、ここ濤声楼では正体を隠し、『帝』と名乗った。  優しく輝く、銀色の長い髪と、何処か寂し気な茜色(あかねいろ)の瞳が印象的な、実に美しい青年だった。背中に大きな白い羽根を携えた、有翼人種で、名前の通り、正に大天使の美しさだった。けれど、ミカエルも悲しい異形、異形故の短命だったのだろうか……    週末の夕暮れ時、黒いフードの着いた外套を、すっぽり被って、お付きも従えず、内密に現れる彼を思い出し、朝霧(あさぎり)の胸を熱くさせると、切ないさざ波を呼んだ。  先の国王も、同じく有翼人種で、五十代と言う若さで病に倒れ、この世を去り、ミカエルが国王となり、二年余り──余りに早い死だった。二十歳を一つ越えた齢だった。  自分よりも、ミカエルの死を悲しんでいるのは、目の前で項垂れている白露だろうと、朝霧は、忍びない思いのやり場に難儀した。
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