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波乱と栄華を数えた人類は、ひたひたと危機的な人工低下に見舞われ、更には、新生児の男女比が大きく均整を欠くようになり、女児の産まれる比率が減り続けた。妊娠出産と言う自然の営みを、人類はより確実にコントロールせんと、人工授精であったり、体外受精に救いを求めたが、始めの内こそ、受精卵が順調に育まれることを良しとしたが、繰り返す内、小さな異変が起こり始めた。
人工授精に於いては、提供された精液が、黴菌に犯されていたり、体外受精では、曖昧な治験で、闇に出回った誘発剤の使用で、卵巣が過剰反応を起こし、胎児の育成に障害をもたらした。そんな異変に気付きはしたのだが、些細なことと、有耶無耶にして来た結果、流産死産、発育不良が多く見られ、十月十日を無事経過し、めでたく出産となれど、生まれた赤ん坊は、頻繫に奇形を生じた。
亡き『帝』のような、有翼人種は極端な奇形だが、朝霧の口唇裂のような、美醜を問う、外見的な奇形は比較的多く見られた。
奇形も無く、美しく生まれた女児は、いつの日か『姫』と呼ばれ、別格と位置付けられ、この国では護られながら、大切に保育される対象とされたが、それは選ばれた血筋を引いた、富裕層の女児に限ってのことだった。奇形が見られず、美しくはあっても、貧しい家に生れた娘は、こうした濤声楼のような、娼妓宿の『徒花』として、生きることを選ぶのが常だった。けれどそれは、決して不幸な選択などでは無く、権力者である富裕層の目に止まり、引き立てで『お囲い者』となり、身請けでもされれば、一夫多妻を容認されるニーベルク、第二、第三夫人の座を得るチャンスが有るからで、それは貧しくとも、美しく産まれたが故の特権なのだった。
極めて稀な例だが、白露のような、生殖機能を持たない半陰陽は、最も忌み嫌われる異形で、濤声楼のような娼妓宿であっても、余程の物好きでなければ、醜い不具者と気味悪がられるだけで、好んで買う者などはいない。
(せめて生殖機能があったなら──)
慈悲深い『帝』だ、週末こっそり白露を買いに来たりせず、第二婦人の座を与えることも考えただろう。
顔を上げた白露は、自分を悲しく凝視めている朝霧へ不思議そうに視線を当て、愛らしく薄桃色に膨らんだ小さな口唇を震わせ、何かを言いかけたが、
「塔屋から油を持って来て、床を磨きな。顔が映るくらい、ピカピカになるまで磨くんだよ」
遮るように朝霧は声を張った。
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