プロローグ

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プロローグ

 薄明が寝室の窓辺を照らし、静かに目を開いた男を覚醒に導いた。男は首を回して窓を窺うと、街はまだ、夜の熱狂に未練を深く闇を曳き、明け星は切な気に瞬きを見せていた。  独り寝には過ぎる、クイーンサイズのベッドで、寝返りを打った恩塚 武尊(おんづか たける)は、投げ出した腕で隣を探り、沈黙を返す、その冷ややかさに打ち(ひし)がれ、半身を起こすと首の後ろを押さえた。  ぐるり──と首を回した武尊は、自らが発光しているような、シーリングライトを(みつ)め、無慈悲な現実に、泣けない想いを静かに嘲った。 『外国へでも行けば、気が紛れるんじゃない?』  傷心の武尊を見兼ねた、実姉の庸子(ようこ)が、気紛れのように呟いた言葉だが、その時ある考えが閃き、武尊を突き動かすこととなった。名目上は亡妻、クラウディアを偲ぶ旅として──
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