濤 声 楼

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濤 声 楼

 激しい雨音へ、微かに混じった雷鳴が、次第に明確な意思を見せると、 「不吉だねぇ──朝の雷だなんて……」  濤声楼(とうせいろう)の女将、朝霧(あさぎり)は、物憂げな視線を格子の嵌った窓へ投げた。    この濤声楼の表向きは、旅館、大仰な施設ではなく、休憩処と言ったもので、実の処は、複数の徒花(あだばな)と名付けた娼婦を置く娼館だった。    ふと座敷の奥へ視線を流し、畳を張った帳場から腰を上げ掛けると、そんなタイミングを謀った様に、ドンガラガッチャン──と派手な音が立った。   「知った風な口を、聞くんじゃ無いよッ──」  続いて二階から聞こえた喚き声は、この店の看板徒花、遥風(はるかぜ)の金切り声だった。   「また──白露(しらつゆ)だね……」  騒動の因由に辺りを付けた朝霧は、膝を叩いて舌打ちをすると、やれやれと言った具合に立ち上がり、騒ぎの方向へ足早に向かった。
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