告 白

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告 白

 強張った表情のまま、小さく顔を振った白露(しらつゆ)は、何度も言葉を飲み込んで、(みつ)める武尊(たける)を眩しそうに眺めた。 「私は──旦那さんに、頂くばかりで、何もお返し出来ない──」  豊かな睫毛に縁取られた瞼蓋が、緩やかに降りると、魅惑的に揺れるオッドアイを隠し、憂愁が可憐な顔に浮かんだ。 「頂くばかりで、何もお返し出来ない──そんな哀しみを抱えて、一緒にはいられません。私は──」 「お返し? お前を愛することへのお返しか?」  我慢出来ず、白露の言葉を遮った武尊は、頷いた白露を抱き締めた。 「何にも要らない。俺は、お前だけが欲しい」  腕から逃げようとする白露を、更に強く抱き竦め、『欲しいのはお前だけだ』と繰り返すと、 「……私は、愛する人の子を産むことも出来ない、哀しい不具者なのです。そんな私でも、愛して下さると言うのですか?」  哀しく残酷な現実を口にしたことで、想いが堰を切ったように、涙となって白露の頬を伝った。 「それが『お返し』だと言うのか? そんなこと──」  吐息混じりに口にしながら、武尊は、白露の抱える憂いに気付いた。子を()つことの叶わない白露が、ずっと胸に苦しんでいた想いが、余りにも切なくて、それ以上言葉が継げ無かった。 『飾るのは嘘と同じ』馬車曳きの言葉を思い出した武尊は、白露の手を取り、優しく握ると、 「お前が良い。いつも、ずっと俺のそばにいて欲しい──お前じゃなきゃ嫌なんだ」  ゆっくり、言い含めるように告げた。武尊の何処か幼い言い回しが、白露の心を解し、涙で濡らした頬が染まっていた。 「子の孕てない私ですが……旦那さんを愛しています。言葉に出来ないほど、愛しています──」  白露の口調も、武尊同様簡潔だった。ひとつひとつ頷きながら聞いていた武尊は、白露を胸に抱き、抱えた小さな頭を、愛しげに揺すった。 「……子どもなら、小生意気なのが一人いる。それでもう、十分だよ」  低く笑い、白露の顎へ手を遣り上向かせると、甘く優しい接吻けで、愛らしく綻んだ口唇に触れた。  白露が、身請けを了承したと、武尊から聞いた朝霧(あさぎり)は、 「旦那さん、あたしに四日──いや、三日くれないかい?」  受話器を手に、武尊の馬車を呼びながら、ニーベルクでの滞在期間を確認した。武尊が日程を伝えると、一言『ありがとう』と呟き、 「白露(あのこ)の心を動かすもの──見つけてくれたんだね」  分厚い台帳を机に広げながら、リーディンググラスを掛けた朝霧は、何かを探しているのか、そこに記された文字へ視線を走らせた。 「ありがとうね──。あたしも出来るだけの(はなむけ)をさせてもらう。白露(しらつゆ)を、よろしく頼むよ」  明るく声を張り、台帳の上へ、忙しく指先を滑らせた。
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