濤 声 楼

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 勢い良く開かれた扉に、ハッ──と身構え、振り向いた数名の徒花達は、朝霧(あさぎり)の険しい顔に慄き、左右に散ると道を開けた。朝霧は騒動の渦中を覗き込み、床へ俯伏せに抑え付けた、白露(しらつゆ)の背中に跨り、長い髪を掴んで揺すっている、遥風(はるかぜ)を一瞥すると、   「おやめ、おやめ。騒ぐんじゃないよ」  小さくパンパン──と手を叩き、   「お客が泊ってるんだからね。静かにおしよ」  声を潜めて、遥風に目配せをして見せた。舌打ち混じりに、掴んだ髪を放した遥風は、蹲った白露を忌々し気に見下ろした。   「女将さん、こいつに口の聞き方を教えておやりよ。出来損ないの癖して、アタシに指図しようってんだから──」  目を血走らせ、感情露わに訴えた。   「大きな声を出すんじゃないよッ」  慌てて遥風を窘め、頭を抱えて床に伏した白露を突衝いた。   「ここは徒花の『お支度部屋』だよ。お前が来る所じゃないんだよッ。一緒においで」  踞った白露を立たせ、朝霧は階下へ追い立てた。
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