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終わりのない幸せを
空港へ向かう為、馬車は日本街へ戻り、白露を抱き寄せた武尊が、最後のニーベルク、『行きたい場所は無いのか?』と訊くと、白露は遠慮がちに、『教会へ行きたい』と言った。
教会からの鐘が、毎日濤声楼まで、響いて聞こえるのだと言い、その鐘を鳴らす教会を、一度見ておきたいと、羞しそうに笑った。
武尊の指示に、馬車曳きは声を張り馬を減速させ、脇道へ進路を変えると、メインストリートとは打って変わって、石畳の道路に、伝統の色を深く引いた、西洋建築の立ち並ぶ、厳かな街並みが広がった。
石畳を蹴る蹄の音は心地良く、馬車に揺られる内、白露が瞼蓋を閉じて、気持ち良さそうに、微睡み掛けていることに、武尊は愛しさを募らせた。優しく照らす陽射しは、瞼蓋を縁取る長い睫毛に、キラキラと遊んでいた。
程なく目的地の教会に到着すると、丁度結婚式の真っ最中で、新郎新婦を祝う家族が、教会の中庭に集い、『一緒に祝ってくれ』と、馬車から降りた武尊と白露に気付き叫んだ。
積極的なご婦人に腕を引かれて、式に参列する形となってしまった武尊と白露は、今正に誓いを唱える、幸せな二人を遠目に眺めていた。
荘厳なパイプオルガンのメロディーが、未だ若いのだろう牧師の、深く張りの有る声に静かに霞んだ。
新郎の名を呼んだ牧師が、誓いの言葉を唱えると、緊張した面持ちで固まっていた白露が、『あれはどんな意味だ』と武尊に顔をむけ囁き声で訊いた。
魅惑の瞳を真っ直ぐ瞶め、武尊が一つ一つを説いて聞かせると、
「健やかなる時も、病める時も──なんて素敵な誓いでしょう……」
感動をそのまま声に出した白露に、まるで応える具合に一際高く、パイプオルガンが喜びの音色を奏でた。
重ねた新郎新婦の手に、牧師が手を重ね、新婦へ同じ言葉を唱える──
「お前は……誓うのか?」
照れをそのままの打っきら棒に、武尊が白露に尋ねると、即座に『はい』と、淀むこと無く白露は応えた。
「俺も誓う。そしてお前には、終わりの無い幸せを──」
武尊もゆっくりと宣言し、讃美歌に祝福されながら、愛を誓う接吻けを交わした。
二人を乗せた馬車は、祝福の歓声とライスシャワーを尻目に、空港へ進路を取った。
白露の金髪にくっ付いて来た、数多の花びらは、天使が悪さをしたように風に高く舞い上がり、幸せを讃える賑やかな鐘の音が辺りに響いた。
何時までも、終わりのない幸せを唄うように──
♛See you again♛
このページに幸せの祈りを込めて──
お読み頂き有難うございました(*’ー’*)ノ
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